SSブログ

「高度プロフェッショナル」という名称にまつわる誤解が利用されている [労務管理・労働環境]


高度プロフェッショナル制度とは
対象者は年収1075万円以上で、
研究開発や金融商品のディーリングなど高度な専門業務
という労働者を対象に、

労働時間の上限を撤廃し、
時間外割増賃金制度の適用も外す
というものです。

「高度プロフェッショナル」という言葉は
誤解を生みやすい効果を狙っての名称でしょう。

あたかも、
自分で自由に働き方を決められる立場の人
という印象を持ちませんか。
こういう立場の強い人であれば、
保護はいらないのではないかと
うっかりすると考えてしまいます。

しかし、こういう人たちは
現在はあくまでも労働基準法の適用を受ける労働者なのです。

つまり、使用者の指揮命令に従って労働をしなければならないので、
自分で勝手に仕事を作って働いているわけではありません。
個人事業主ではないのです。

この労働者と言えるかどうかのメルクマールについては
1985年に労働省労働基準法研究会報告が提唱しているものがあります。
それには、
1 仕事の依頼を拒否できない
2 仕事をする際には、上司の指揮監督に服する
3 労働時間、就業場所は使用者に従う
4 他の人に変わってもらえない
5 報酬の算定方法は使用者が決める
となっています。

つまり、これから、
高度プロフェッショナルの名のもとに
労働時間規制がなくなり、
時間労働が支払われなくなる人たちは
概ね1から5の基準を満たす人たちなのです。

名称に惑わされてはいけません。

では、どうして、そういう労働者には
労働時間の制限があり、
時間外労働をさせる場合に割増賃金の
支払義務があるのでしょう。
これは、違反すると刑事罰の対象となります。
そこまで強く守らせようとしたのが
労働基準法の立場ということになります。

労働時間を厳しく定めた理由は、
労働者を早死にさせないためです。

なぜ、私がそう言い切れるかというと、
官僚として労働基準法を作った人から
私は労働基準法を教えてもらったからです。
松岡三郎先生と言って、
私が教えていただいた当時は明治大学の教授でしたが
私の大学にも教えに来ていただいていました。

その先生の著書に明確に記載されています。

その著書を表した当時は、
まだ過労死という言葉はありませんでした。
労働基準法制定当時も(1947年)
過重労働による脳・心疾患という概念はありませんでした。

但し、戦前も、過酷な労働状況の中で、
結核や肺炎、栄養失調、消耗等で
若い命が失われていきました。
これは常識でした。

だから、当時、
1日8時間まで、1週間48時間まで(現在40時間)と定め、
違法な長時間労働を罰則付きで禁止したのでした。

そうして、時間外労働の場合、
なぜ割増賃金を義務付けたのか
(時給1000円の人は1250円とか)
というと、
コストを高くすることによって
時間外労働を抑制するためでした。

管理職は、時間外労働で割増賃金は尽きませんが
深夜労働(午後10時から午前5時)は
管理職であっても割増賃金がつきます。
深夜労働の危険性
早死にしやすいということから
制限をきつくしたわけです。

この考え方は法律制定当初の考え方だけではなく、
昨年の最高裁判決(平成29年7月7日判決)でも
「労働基準法37条が時間外労働等について
割増賃金を支払うべきことを使用者に義務付けているのは,
使用者に割増賃金を支払わせることによって,
時間外労働等を抑制し,もって
労働時間に関する同法の規定を遵守させるとともに,
労働者への補償を行おうとする趣旨によるものであると解される」
と明確に述べています。

さて、高度プロフェッショナル制度は
年収が1075万円を超える職種とされています。
これだけ年収があれば、
労働時間の規制が無くてもよいのでしょうか。

これだけ年収があれば早死にしてもよい
ということにはなりませんね。

これだけ年収があっても、
時間外労働を余儀なくされれば、
やはり、くも膜下出血や心筋梗塞、
あるいはうつ病による自死などの危険がでてきます。

これだけ年収があっても
使用者が仕事の内容、どこまでやるか
ということを一方的に決めますし、
賃金の額も一方的に決めます。

労働者は仕事をせざるを得なくなって、
過重労働をする可能性も
大いにあるわけです。

なぜ年収が高ければ
労働時間の規制を外すことができるのか
全く理由はありません。

政府は、裁量労働制の統計がでたらめだったことを受けて
高度プロフェッショナル制度以外の裁量労働制は引っ込めました。
しかし、財界の不満を受けて
高度プロフェッショナル制度は残すと報道がなされました。

結局、
労働時間の規制をする必要性はあるけれども、
財界の要請で規制を撤廃する
という報道だということになります。

財界の要請を受けて
早死にの危険に目をつぶるということです。

厚生労働省というお役所は
労働者の健康や福祉を促進する役所ではないのでしょうか。

ノルマの無い研究開発
労働に従事する時間帯が限定されている
金融ディーリング
そんなものはありません。

労働者の命の危険を分かっていながら要請する財界
労働者を使い捨てなければ企業が成り立たないとすれば
日本は何とも貧しい国になったと言わざるを得ません。
しかし、この制度は
タコが自分の足を食べるような
優秀な労働者を消耗し、
優秀な労働者をそのような業種から遠ざけることにつながりますから、
どんどん兵力が消耗していくだけです。

第二次世界大戦の末期の様相を呈していると思います。
効率よく儲かる仕事に
職種転換をすることを
気が利いたコンサルタントなら勧めるところでしょう。


nice!(0)  コメント(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。