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いわゆる連れ去り離婚請求訴訟で、妻の請求が有責配偶者であり、信義に反して認められないと棄却された判決の分析 [家事]

本件は私が担当した裁判ではありません。ご本人が、同じ苦しみをしている人の役に立つとよいということで報告を望まれたため、判例分析という形でご報告する次第です。


事案:今から数年前、小学生の子どもと2歳の子どもがいる30代の妻が、子ども連れて別居し、数か月後に離婚調停を申し立て、1回で不調にして、別居から半年後に離婚訴訟を提起した事例。妻の主張する離婚の原因は、夫のモラハラである。夫の主張は、別居直前婚姻生活は破綻しておらず、別居は不貞が目的であり、子どもの先天性の障害について妻が障害の事実を認めず治療を行うべきだという夫と感情的に対立したことも別居の理由だとしている。

事案の特徴:離婚の意思が固く、別居という事実が数年間続いてしまいました。有責配偶者からの離婚請求を認める現在の裁判例に照らすと、請求が棄却されたのは、極めて珍しい判決です。もしかすると、事案の特殊性、あるいは裁判官の個性があるかもしれませんが、針の穴を通す裁判に挑む人たちにとって、何らかのヒントが得られるかもしれないので、できるだけ教訓を抽出するべく分析を試みます。

先ず、判決は、夫の過去の粗暴さについては肯定しています。しかし、別居直前テーマパークへ家族旅行などをしていることをはじめとして、協力し合って生活していたことを重視します。
夫は、比較的写真を残しており、家族写真を証拠として提出しています。楽しそうな家族の姿は説得力があります。テーマパークでなければならないということはありませんが、写真を残しておくということは有効だったと思います。ところが、家族がいなくなってしまうと、ご自分も楽しかった時のことを具体的に思い出すことができなくなることが多いです。否定的なことは詳細に出てくるのに、何度も聞かないと楽しいイベントの記憶が語られないということはよくあります。


別居のきっかけとなった口論があったこと、夫の口調が追及的だったことの認定はあったのですが、子どもの必須の治療を受けさせない、障害を隠していた妻に対する追求なので、「執拗に問い質した」としても「非があるとは言えない」という判断でした。

肝心の不貞の事実ですが、妻は否定しています。しかし、妻の友人が妻自身から不貞の内容を事細かに聞いたという証言が飛び出し、一気に裁判は急展開していきました。その証人に対して、妻が脅迫をして、証人が怒り、裁判で証言するという経緯があったようです。不貞の事実は、実はなかなか証明が難しいです。また、開始時期やその程度などについても難しく、苦労します。別居直前に不貞が始まったことが証言されたことは大きかったと思います。

さらに、子どもたちの習い事などについても、子どもたちの名前を不貞相手の名字に変える等したことが、裁判官にとって目に余る事情だったようです。その不貞が始まるまでは、家族は協力し合って生活してきたので、別居までに破たんはなかったし、破綻があったとしても不貞が原因であり、有責配偶者だから、離婚を認めることは信義に反するという結論になりました。


この裁判官はベテランの女性です。どちらかというと、多くの裁判官の様に妻側に有利な判決を書くような印象を持つと何人かの女性弁護士は言っていました。判決前に、ある程度心証を開示して和解を打診したようでしたが、うまくいかなかったようです。

不貞の事実、特に開始時期と内容が明らかになったため、離婚を認めることがあまりにも抵抗があったということなのだと思います。
この証言で、妻の裁判所についた嘘がことごとく、芋づる式に露見したということも多く、妻の主張を認める要素が無くなったということなのだと思います。これが無ければ、家族が協力している証拠があっても、裁判官には色あせて見えたでしょう。生き生きと鮮やかに写真の笑顔が飛び込んできたということなのだと思います。

逆に言うと、これまでの苦い経験からすると、このような劇的な証人が無いとなかなか勝てないということなのだと思います。裁判は真実に基づいて判断されるのではなく、裁判所に提出できた資料に基づいて判断されるということは、見通しを考えるにあたって留意される必要のあることであることが明らかになったと考えるべきでしょう。

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