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保護命令の事件の相談を受けた弁護士の先生方へ [家事]


1 はじめに

偶然にも保護命令の事件を何件か担当するようになりました。
その経験の中から
保護命令の運用手続きが
私たちの知っている法体系から
かなり逸脱した法制度になっていることを強く感じています。

その中で冤罪とも言うべき決定が多く出され、
多くの人間が、
子どもや家族と会ったり連絡を取ったりすることさえも
1年以下の懲役又は100万円以下の刑罰の威嚇のもと
国家権力によって禁じられ、
精神を破綻させている実情があります。

保護命令は、
配偶者の生命身体に重大な危険がある場合に限定されているはずですが
実際の運用では、
そのような危険がない場合にも保護命令が出されています。
その手続きの中で、当事者は一人での対応を余儀なくされ、
弁護士を選任する権利を実質的奪われています。

2 普通郵便での期日直前の連絡という運用

先ず、保護命令申立事件は、
迅速な処理が要請されていることから
運用上は、申立がなされてから1週間以内に
謄本を相手方に発送するようですし、
謄本発送から1週間以内に
当時者審尋期日が入れられているようです。
通常事件の答弁書に当たる当事者意見書は
その前日までに提出をしなければなりません。

しかも迅速性を理由に、
書留郵便での送達をせずに、
普通郵便で郵送されますから、
実際に相手方が謄本を見るのが、
発送から3日後ということもあるようです。

そうすると、水曜日に裁判所から発送したものが、
金曜日の夕方に到着すると
弁護士を依頼するのがどうしても月曜日以降になってしまい、
反論書の提出が翌日ということになりかねません。

保護命令決定を受けた後で離婚調停になったときに
相談に来る人があまりにも多すぎるのですが、
それは、本人の油断ではなく、
そもそもそのように本人が十分に対応できないような
運用がなされているということが
実態に即した理由であるようです。

3 弁護士の初動 申立書の主張の吟味

弁護士が最初に行わなければならないことは、
申立書記載の事実が要件事実の求めている内容で記載されているか
という点の吟味です。

保護命令申立書は
シェルターや役所に用紙が備え置かれており、
アンケートに答える形で記載するようになっています。
ですから、実際は申立人本人が手書きで記載していることが多くあります。

保護命令を出す要件ですが、
①過去に暴力や生命に関する脅迫があったこと
②その後の事情で、今後さらに
 申立人の身体・生命に関して重大な危険があると言えること
ということになります。

しかし、実際に保護命令が決定された申立書を見ても、
そのような事情が記載されていないことが多く、
相手方が申立人の居所を探しているような事情だけが記載されていることが
多くあります。

保護命令の申立代理人や女性支援者は
女性を夫等から遠ざけることが
保護命令の目的や機能だと思っていて
身体生命の重大な危険を予防するという
高いハードルを意識していないことが多いようです。

また、自分に暴力を振るわない夫でも
児童虐待をしていることを(もちろん誇張して)
主張して保護命令の理由としていることもあります。

先ず、真実の法律要件に立ち返って、
申立人の主張が真実だとしても
要件事実の主張になっていない場合は、
それをきちんと主張することが第一になります。

主張自体失当の申立が極めて多く
それでも保護命令は決定されることが多いようです。

4 申立書主張の吟味2 真実性、信用性

申立書は何かを書かないと埋まりません。
申立人は言われるままに埋めていきます。
ニュースソースを明かせませんが、
書き方の指導を受けることもあるようです。

本当は危険でもないことが
いかにも危険なように記載されることがあります。

例えば、本当は
植木にはさみを入れようとして
盆栽を探して、小言を言っていただけなのに、
植木ばさみをもって追い掛け回された
というように誇張されることが実際ありました。

なぜそれ誇張だと言い切れるかというと、
申立人本人は、事実と違うことを言っているので、
自分の言ったことを忘れていたからです。
後の離婚訴訟等で、
妻ご本人がそのような事実はないと断言されていました。

相手方は、特に自分の能力に自信のある男性は、
申立人の主張を論破しようとしてしまいます。
結論はどちらかなのかを言わず、
ありえないということを自分なりに説明しようとしています。

先ず、あったのか、なかったのか
誇張されているなら真実はどのようなものだったのか、
結論を聞き出すまでに時間がかかることがあります。

事実を争うとなった場合、
次に何らかの証拠があるかどうか
間接事実しかないことが通常ですが、
その直後に家族仲良く笑顔で写真に納まっている
等の証拠があることが結構多くあります。

ここでも単なる暴力の有無ではなく、
申立人の生命・身体に「重大な」危険のある場合だ
ということを常に意識しておく必要があるようです。

5 具体的危険犯の主張をしましょう

けっこうこの「重大な危険」を抽象的にとらえて、
離婚調停が申し立てられたこと
子どもを連れて別居したこと
連絡先を明かさない事
等が
紛争が存在していることをもって
重大な危険があると
裁判所が認定してしまうことがあります。

しかし、平成14年の東京高裁のように
3月29日決定(判例タイムズ1141号267頁)

本来具体的に重大な危険がなければ発令できない保護命令ですから、
抽象的危険では足りず具体的危険が必要だという主張をすることが
効果的であるようです。
冤罪で受ける相手方の不利益を丹念に主張するべきでしょう。

事実認定をフリーハンドでさせない努力が必要だと思います。
穏当な調停手続きを履践していることをもって
暴力の危険があるという事実認定をしてしまったら
調停を含めた裁判制度の否定になると思います。

6 当事者の状態に対するご理解を

当事者の多くは、ある日帰宅したら
荷物も、家族もいなくなってしまったということで
先ず呆然としています。
中には、警察官が立ち合いで荷物を引き上げるということさえあります。
相手の実家に行ったら警察官10名から取り囲まれた
という事案もありました。

いずれも暴力がない事案です。
警察官に抗議をしたところ
暴力がなくてもDVだとの返事があり、
いわゆるDV法が、
身体的暴力がある場合にだけ警察が法定の支援措置をとることができる
という法律も警察庁の通達も
まるで分っていないことが実情です。

暴力をふるっていない夫は、
このような自分の力ではどうすることもできない
理不尽な思いをしています。
子どもにも会えない状態が続いていることも多く、
その喪失感、屈辱感はとても強いものがあります。

自分を守ろうとすることが
こういう場合、人間の当たり前の心理状態になっています。
中には鬱状態を呈している人もいます。

きちんとしたカウンセラーや医師を紹介する
ことが必要な場合も多くあります。

ストレートに質問に答えず
まず自分を守る言い訳ばかりが出てくることも多くあります。
できるだけ丁寧に何をするべきかを説明してください。

なぜか、それなりに能力の高い人たちが
冤罪保護命令の被害者になることが多いので、
一度こつを呑み込めば頼もしい依頼者になります。

7 プラスの事実の掘り出し

暴力を振るわない事情を掘り出すことも有効のようです。
どんなに追い込まれても感情的にならず、
口論しても手を出すことはなかった
ということは、法の要件を考えた時には
とても良い前例となるようです。

家族思いのことを
申立人側は子どもに執着する性質だと
独自の保護命令の目的に基づいて主張してきますが、
冷静に反論していきましょう。

法律制度に則った解決をしようとしていることは
とても重大な良い事情となるようです。

未だに行政はレノア・ウォーカーの
DVサイクルを言い出して
いい時期があってもそれはDVにつきものだと
主張しているようです。

しかしレノアウォーカーは、
自己の施療体験を述べているにすぎず
科学的に論証されたものではないという評価が定まっています。
良い事情は、どんどん提出した方がよさそうです。

8 自主的な行動抑制

どうしても裁判官は、
夫の妻子に対しての接触を嫌う傾向の方が多いようです。
それにしても法律要件を欠くのだから
保護命令を出してはダメなのですが、
実質的に接触避けるために
危険という抽象的概念を活用して
危険を認定してしまうことが多くあります。

相手方の方から自主的に
離婚調停等が継続している際には
近づかない、用事があるときは代理人を通して行う
ということを誓約することが効果的です。

それでも国家から刑罰の威嚇によって遠ざけられるより
とてもマシです。
また、妻側の一番の興奮ポイントは
子どもを連れて別居したことを
夫が非難してくるだろうということで、
そこに対して過敏になっています。

そのことを許す、理解するという夫の態度は
妻の緊張をだいぶ緩和させるようです。

実際に夫が近づいただけでパニックになることが多いので、
面会や連絡はしばらく遠慮した方が
将来の家族再生にはむしろ有効のようです。

実際の事例では、
申立人が裁判官からの勧告で取り下げたにもかかわらず
取り下げた理由として相手方の自主規制の誓約をあげて来ました。
けっこう威力がある主張のようです。

9 憲法論をきちっと書く
 
これまで述べてきたような民事訴訟法の規定の内
被告の防御権を軽視するような法手続きや運用は
意見書の中できちっと主張するべきだと思います。
分かる裁判官にはわかるでしょうし、
これは、いい加減な決定を出したら
抗告は当然するし、憲法論で最高裁まで争うぞ
という気構えを示すことにもなります。
その際、冤罪保護命令が出された人の
家族を失う喪失感や
子どもの親としてのコミュニティーの中で
暴力人間のレッテルを張られること等
保護の必要性もあり、
その保護の必要性と女性保護の迅速性の調和として
保護命令手続があるのだから
条文を超えて相手方の防御権を害することについては
きっちり問題の所在として示す必要があると思います。


10 冤罪保護命令と戦うことは誰を守るのか

第1に子どもがいる場合は子どもを守ることになります。
考えても見てください。
子どもから見た場合、
自分の父親が、自分の母親に暴力をふるい
身体生命に重大な危険を与える可能性があるとして
裁判所で刑罰の威嚇をもって近づくなと命令された
ということを
後々まで引きずるわけです。

実際に、夫に対して自宅付近を歩いてもいけない
という保護命令も出されたことがあります。
そんな無茶な保護命令を
自分の実の父親が受けたということになると

親に対しての像が悪くなるばかりではなく、
思春期の自我の目覚めるころ、
自分はそのようなDV者の血をひく存在であると
意識せざるを得なくなるのです。

優しかった父親の記憶は喪失し、
叱られた時の記憶だけが父親の記憶になってしまいます。
父親から愛されたことの無い自分という意識は
自己評価の低下を招くことになると思います。

それが冤罪であったならば
取り返しのつかないことになります。

もう一人、申立人である妻本人にとっても
保護命令が出されることは精神的に悪影響があります。

冤罪保護命令が出されるときの多くは、
妻側が何らかの不安を抱えている時です。
理由がある不安の場合もありますが、
理由のない不安を抱えている場合も多く確認されています。
産後うつやパニック障害等の精神疾患、
精神的状態を悪化させる内科疾患や薬の副作用

妻が不安を抱えていれば
夫の虐待があるとのマニュアルに基づいて
「あなたは悪くない」一辺倒の支援が多くあります。

このような支援を受けた女性の中には、
相談をするたびに自分の夫がひどい人だと言われるたびに
精神状態が悪化していったと言う人がいます。

自分は夫という最も身近な存在から
何も理由もなく攻撃をされるような人間なのだ
という意識が固定化され
精神的に落ち込んでいくようです。

不安や焦燥感のすべてが夫に原因があると思いこみ、
とにかく逃げなければ命が危ない
と言われ続け、嫌悪感が恐怖に育っていったと話してくれました。

実際の公文書でも
妻がクリスマスや年末年始だけでも
夫を入れた家族で暮らしたいといったところ、
2時間かけて逃げることを自分が説得したと
警察官が報告しています。

その事例は妻の妄想だったということが
後の保護手続き却下の決定の中で認定されています。

保護命令を受けて逃げ続けると
妻は、いつまでもいつまでも夫が自分を探しに来る
という恐怖を抱き続けることになります。

「近くにおいでの際はお立ち寄りください」
というハガキが届いただけで
警察駆けこんだ元妻は、別居から12年が経っていました。

実は冤罪保護命令を阻止することでもっとも救われる人間は
申立本人なのかもしれません。

11 余事記載

刑事事件で無罪判決をとることや
再審無罪とすることは
弁護士の本懐のように言われています。
冤罪を防ぐことが弁護士の第1の役割であるということは
おそらく共通認識だと思います。

刑事事件は、手厚い刑事訴訟法や当番弁護士、国選弁護人によって
手厚く被告人の利益が守られています。
ところが保護命令はこのような手続き保障がなされておらず、
極めて脆弱な状態です。
冒頭述べた準備期間や実質的弁護人選任権もありますが、
口頭弁論が開かれないことが多いために決定に理由が付されません。
事後的な手続き保障も脆弱です。

私は、どうしてこのような制度が
弁護士や弁護士会から容認されているのか
不思議でたまりません。
構造的に冤罪が生まれる教科書のような制度です。

女性保護だからでしょうか。
女性保護の場合冤罪は仕方がないというのでしょうか。

それならば
犯罪被害者保護のために冤罪も仕方がないと
その先生方は言うのでしょうか。

保護命令事件は、時間がないということもありますが
受任を拒否する弁護士もいるようです。

比較的古くなった私としては
保護命令を取り巻く環境が
どうしても理解できません。

このように、社会から孤立する人を弁護することが
弁護士の本懐だということが
嫌悪の的になるような弁護士界の現状は、
司法の危機ではないかと
余計なことを考えています。

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