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なぜ弁護士は殺人者を弁護するのか、弁護するとはどういうことか。ある妻殺しの事件に寄せて [刑事事件]

なぜ弁護士は、
罪を犯した人を弁護するのでしょう。
例えば人を殺した人を弁護するということは
どういうことなのでしょう。

人を殺した場合、
ルールに従って、
制裁を受けなければなりません。

ルールに従って制裁するということは、
あくまでの社会の仲間として扱うということです。
人間として扱うということです。
人間として扱うからこそ
人を殺した場合制裁を受けるのです。

これが人権です。

この「ルール」の大きな柱が、
言い分を聞くという手続きです。
どんな人にも言い分があります。

その言い分で罪が軽くなろうと
逆に重くなろうと
言い分を言わせることが
仲間として扱うということです。
人間として扱うということです。

だけど人を殺した人は
その言い分をうまく言うことができないことが多いのです。
人の命を奪ったということで
激しい精神的動揺があることが普通です。

また逆に、人を殺す場合は
精神的葛藤が続いたり、
極端に強い葛藤が生じたりして
自分でもわけのわからない状態の中で、
取りつかれたように人を殺す
ということが起きているので、
自分で自分の行為をうまく説明できないことも
多いのです。

そうだとすると
言い分をいうことも
実際は難しいことなのです。

ましてや、
世界中が自分を非難しているという
絶対的なアウエイ状態ですから
言えることも言えなくなるのが
人間です。

ですから、
罪を犯した人には
弁護士という人間が
その人に代わって言い分を述べることが
どうしても必要になります。

だから弁護士は、
どのような人の弁護をするときでも
その人の立場に立って、
その人の言い分を一緒に考えて
その人の分まで主張をしなければなりません。

人間の弱さにはいろいろな形があります。
その弱さを十分に理解しないと
罪を犯した人の言い分を思いつくことができないでしょう。

夫が妻を殺した事件がありました。
夫婦には2歳の子供がいます。
かわいい男の子です。
夫は我が子をかわいがりました。
息子も、父親に対して
何のわだかまりもなく安心しきって笑っている
そんな写真もありました。

しかし、夏、
突然妻は子どもを連れて行方をくらましました。
夫の話によると
妻は、子どもを産んだ後あたりから
精神的なトラブルを抱えだしたようです。

真実はわかりません。
しかし、これは理にかなったことです。
いくつかの研究結果から
女性は子どもを産んだ直後、
大人の男性(夫)に対して共感を抱きにくくなり、
その結果不安になりやくすなり、
鬱的状態になると報告されています。

程度の違いは大きくあるけれど
誰にでも何らかのそういう変化が
起きるということだそうです。

私が関わった実際の事件でも
一人目の子どもを産んだ時から
わけもなく不安に陥りやすくなり
すべてがうまくいかなくなるのではないかと考えだし、
2人目の子どもが生まれたあたりから
かなりその傾向が強くなり、
突発的な事情から
子どもを連れて出ていくということが
とても多く起きています。

これは、
脳の機能変化とホルモンバランスの変化であって
環境が変わらないのに
勝手に起きてしまうことが多いのですが、
そのことはまだ、
多くの人が知るところになっていません。

理由がなく不安になる女性に対しては、
「あなたは悪くない」
「夫の精神的虐待が原因だ」
「夫のDVは治らない」
「命を守るために逃げなければならない」
とだけ、マニュアル通りのアドバイスをする人たちがいます。

そいうことを言われるたびに
妻の精神状態は刻々と悪化していきます。
そうして、全力で
夫に知られないように行方をくらますように促され
実行するしかなくなります。

本当は、子どもを産んだ女性に対しては
これまでと違ってことさら親切にしなければならないのですが、
知識も時間も精神的余裕もない男性は、
生む前と同じ対応をしてしまいます。

自分が何も変わらない、これまでといっしょなのに、
妻が子どもを連れて出て行った。
いったい何が起きているのか
とただ呆然とするしかありません。

「彼」は妻が子どもを連れて出て行って
1週間してようやく、
子どもと妻がいなくなってしまった
という言葉を発することができるようになりました。

さらに1週間して
ようやく、ただひたすら歩き続けるという
行動に移すことができるようになったようです。
でも彼ができたのはそれだけでした。

しかし、その後は
仕事はしていたようですが
何もする気が起きず、ふさぎがちになったようです。
かなりアルコールに依存するようにもなっていったようです。

無理もないでしょう。
あんなに可愛がっていた子どもと
突然全く会えなくなったのです。
辛い仕事でも
子どもの寝顔を見ることで
生きてきた喜びを実感していたのに。
すべてが奪われた気持ちになっても
不思議ではありません。

本当は、妻に対して
「そういう不安は誰にでもあるよ。私もあったもの。
 気の持ち方で何とでもなるよ。
 子どもがいるのだから、夫婦で乗り越えなければね。」
と言ってくれたり
「そんなに心配ならば私が意見するから、
 旦那を連れておいで。」
と言ってくれる人がいれば
妻も子どもも家族のままでいられたはずです。

夫に対しても
「子どもが生まれる前と同じじゃだめだよ。
 とても敏感になっているのだから、
 ことさら優しくしてあげて
 多少のヒステリーは大目に見てあげなさいね。
 あと私に愚痴言いにくればいいから。」
と教えてあげる人がいればよかったのです。

そんな人が街中にあふれていたのは
もう50年も前のことなのでしょうか。

仮に別居が仕方がなかったとしても、
子どもの様子を知らせたりする人がいたり、
電話だけでもできる状態だったら
どんなにか救われたことでしょう。

ところが二人は孤立していたようです。
夫はますます孤立を深めてしまいました。

夫は普通のサラリーマンです。
仕事仲間からも信頼されていて
呆然としてただ歩くことしかできない夫に
付き合ってあげた友人もいたようです。
決して、子どもや妻から引き離さなければならない
元々は危険な人物ではなかったはずです。

夫が、家族に会えない時間が経過するにつれて
だんだん精神的に追い込まれていったことは
簡単に想像することができます。

あんなに愛を誓い合った妻が自分を見捨てて
それだけでなく、子どもも自分から奪ったわけです。
自分が、夫としても、父親としても
否定されてしまったと感じることは当然です。
まるで生きていてはいけないと
言われたような気になるそうです

一番深刻な問題は、
なぜそうなったのか本当にわからないことです。
もう一つ、
どうすればこの状態が解消されるのかについても
全くわからないことなのです。

解決をしたいという気持ちがありながら
解決する方法が全く見つかりません。
そうすると、だんだんと
解決したいという欲求だけが強くなり、
毎日、毎秒が、
イライラと焦りだけの時間になって行きます。

自分を取り戻すことだけがテーマになって行きます。
こんな状態にしたのが妻だということだけが
考えないようにしても、頭から離れられなくなります。
本当はまた元の状態に戻りたいのに、
その手段が全く分からない。

とにかく今の状態を何とかしたい。
こんな精神状態がどんどん悪化していきます。

そこから妻を殺すまでの心理状態は
本人でなければ語れないことだと思います。

ただ言えるのは、
彼が元々危険な人物ではなかったということです。
彼を危険な人物に追い込まれた理由があるということです。

これを国家や自治体の関与で行っているとしたら、
本当に彼だけに全責任を負わして良いのでしょうか。

国家や自治体の政策が稚拙で非科学的で、
偏っていたために彼を追い込んでいたとしたならば、
追い込まれた末の行為の責任の一端は
国家が負わなければならないのではないでしょうか。

彼を追い込んだ張本人の国家が
裁判の名のもとに全責任を彼に負わせることは
本当にフェアーなのでしょうか。

彼と彼女には遺された子どもがいます。
とても愛らしい顔で笑うお子さんです。

ただ、人を殺したから悪いというだけでなく、
複雑な事情を子どものために明らかにして
いただきたいのです。

お子さんが
自分は本当は
幸せの家庭の中で生まれてきたことを
教えなければなりません。

事情があって父親は人間の弱さが生じてしまったに過ぎず
自分は根っからの悪人の子どもではない
ということを納得して
自信をもって生きていくためにも
裁判では真実が明かにしなければなりません。
それは、父親であり、間違いをした
あなたしかできないことなのです。

弁護人の先生、よろしくお願いいたします。



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クチコミ

ドイホー先生

初めまして。
昨年末に、妻がこどもを連れて
居なくなってしまった者です。

情報収集の為、ネットをさまより、
ここのブログにたどりつきました。

私のまわりにいる連れ去りにあった人達は、
現行の法律行政や弁護士に対して憤りを感じる人がたくさんいます。
ここのブログを読ませていただいて、
「こういう弁護士さんもいるんだ。」
と心震えたあの日を今でも忘れません。

私は関東在住なので、先生にご依頼できるような場所にはおりませんが、先生のような考え方の人が居てくれて、その思いをブログに綴っていただけるることで、私と同じように励まされ、どうにか生きていける人達はたくさんいらっしゃると思います。
本当にありがとうございます。

どうしても感謝の思いを伝えたくて、
コメントさせていただきました。

これからもブログ拝見させていただきます。
by クチコミ (2019-03-23 22:43) 

ドイホー

クチコミ様、ありがとうございます。当事者の方が冷静になることや分析して合理的行動をとることは難しい事案です。第三者がしなくてはならないことです。このような書き込みをいただくと、方向性や発言することに勇気をもらえます。また頑張る気持ちがわいてきます。ありがとうございます。
by ドイホー (2019-03-24 16:19) 

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