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孤立の危険性 自死リスクとは何か 3 [自死(自殺)・不明死、葛藤]


 自死が起きる場合、孤立が必ず起きている。しかし、どういう意味で孤立なのかということは難しい。例えば高齢者の自死は、一人暮らしの場合よりも同居家族がいる場合の方が多いという統計もあるようだ。物理的に近くに他者がいるということをもって孤立ということにはならないということになる。家族と同居していないという孤立も十分に自死リスクになると考えるべきだが、家族と同居しているのに自分が尊重されていないと感じることの方がリスクとしては高いようだ。
 人間はどこかの集団に帰属したいという本能がある。しかし、集団に帰属するとはただ物理的にその場にいることではなく、仲間として尊重されていることを求めるようだ。仲間として尊重されていないと、その集団から排除される危険を感じてしまうと構成すれば基本はどこかの集団に帰属したいということで良いのかもしれない。
 孤立がどのように自死リスクになるのかについて検討する。
 一つは、物理的孤立自体が、どこかの集団に所属していたいという人間の本能的要求を満たさないことにある。心理学者バウマイヤーは、それ自体が人間の心身に不具合を発生させるとしている。
 二つ目は、心理的孤立、つまり身近に人間は物理的に存在するが、自分がその身近な人間たちから人間として尊重されていないことも、所属からの追放ということを感じさせるという論理からも、それ自体が自死リスクを発生させる。また、人間が集団から尊重されて存在したいということが人間という動物の属性であるとする立場からもそれ自体がやはり自死リスクの端緒となる出来事である。
 以上は、孤立それ自体が自死リスクを発生させる端緒となるという説明である。これとは別に、既に何らかの事情で発生している自死リスクをさらに高める事情としても孤立を考える必要がある。
 孤立の具体的弊害は、思考が解決に向かわない。あるいは悩んでばかりいて考えることができない状態に陥ることだ。味方がいるということ実感することによってわずかの時間でも、無思考状態の悩み時間を中断し、思考を始めるきっかけになる。あるいは思い違い、過大な悲観傾向を是正してもらえることは貴重だ。人間はなかなか自分の誤った思考を自発的に修正することが困難だからだ。
 孤立は、自死の危険に無防備にさらされることを意味する。何ら解決に向かう要素が無くなり、絶望を感じやすくなる。
 また、援助者がいることを実感すること自体で、安心感を獲得することもある。これは自死リスクを低める。具体的な自死予防の介入をする場合(インターセプト)、直ちに自死の要因になった出来事を解決できない場合でも、味方がいるということを実感していただくことによって自死リスクを軽減させるという手法がとられる。
 孤立の有無は判断が難しい。
 客観的には孤立していない場合、あるいは孤立していない集団があるにもかかわらず孤立を感じてしまう。例えば学校や職場では孤立しているが、家庭では孤立していないという場合がある。学校や職場は最終的にはやめればよい集団であり、絶対的な存在ではない。それにもかかわらず、一つの集団においてだけであっても孤立を感じてしまうことは人間にとって極めて有害である。職場や学校その他の自死事案や精神的なダメージを受けている案件をみると、人間は帰属するすべての集団において円満に尊重されて帰属したいと思ってしまうようで、これは人間の本能であるようである。支援の場合は、家庭などの安全な集団に帰属していることを繰り返し刷り込んでいくという作業が必要になる。病的に孤立を感じ悲観的傾向が出ている場合は医療機関での治療の必要性を直ちに検討しなければならない。
 また、安全な集団の中では、他の集団で孤立していることを知られて心配をかけたくないという心理が働くのが多くの人間で観察される。孤立の情報は、支援をしたい資源に届かないということが実情である。その心理はさらに有害な効果を生んでしまう。学校や職場で自分が孤立していることが、家族に申し訳ないという負担感を生んでしまうことが多いということだ。仲の良い家族は、孤立解消の方向に働くよりも、むしろ孤立を深めてしまう事情になるということを支援者は決して忘れてはならない。
 さらに「自分が孤立を感じていること」を自覚することもなかなか難しい。別の相談を支持的に対応しているうちに、本当の悩みが浮かび上がってくることが多い。例えば、朝になると吐き気が起きるとか、足の筋肉が機能しなくなるなどの症状が最初の主訴だったりするが、よくよく聞いていくと、それは出勤しようとすると拒否反応として起きるということがわかり、実は重篤なパワーハラスメントを受けるなどして職場で追いつめられている場合がある。労働者にとっては、パワーハラスメントが職場では当然の業務行為であると思いこんでおり、合理的な解決を志向できない状態に陥っていることがある。まさに孤立である。


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