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不安とアルコール依存症 アルコール依存症には2種類あるということ 不安シリーズ3 [進化心理学、生理学、対人関係学]


酒飲みの立場から言わせてもらうと、アルコール依存症についての現代医学や心理学の考察は、少々雑ではないかと思っています。アルコール依存症の行動について、正義の観点から断罪する研究、断罪型研究結果に基づく鑑別方法が多く、患者本位の研究や治療が少ないような気がしているのです。実際にアルコールの絡む事件が多く、治療を受けている人ともかかわるのですが、「自分で治せ、治らなければ見捨てる。」という形の病院が多いように思われます。それは治療なのでしょうか。

という当事者的立場から入るのですが、先ず、昨日、居酒屋の前を歩いていたら、入りたくなるような「よさげな」店があったのですが、「酔いどころ」と書いてあったのです。これにものすごい違和感を覚えました。「俺は酔いたくて酒を飲んでいるのではない。」という思いが強いからです。飲み始めてしまうと、できれば、酔わないでずうっといつまでも飲んでいたいとさえ思っています。しかし、事件でかかわるアルコール依存症の人たちは、全く違う飲み方をしています。

酒飲みには二種類いると思っています。はたで見ている分には主に笑える酒飲み(A)と、他人事ながら引いてしまう酒飲み(B)です。

Aタイプの酒飲みとBタイプの酒飲みには、酒飲みとしては譲れない大きな違いがあります。

Aタイプの酒飲みは、口先から酒を飲みます。また、酒を口に入れてから息を吸います。
Bタイプの酒飲みはのどの方から酒を飲みますし、息をしないで空気を入れないで酒だけを飲みこみます。

つまり、Aタイプの酒飲みは、アルコールの香りや味を楽しみたくて酒を飲むわけです。できれば、だらだらと酒を飲み続けていたいと思いますので、酔っぱらいたくはないのです。味もわからなくなっては、飲んでいても感動がありません。
一件グルメのようなことをいっているわけですが、うまい酒が無ければ何でもよいのです。どんなありふれた酒でも混ぜ物があっても、それなりに味わって飲むわけです。こういう輩は、注射の際の消毒の脱脂綿をかいでいても幸せな気持ちになります。

Bタイプの酒飲みは、実際はアルコールは弱いし、アルコール刺激などもそれほど好きではないようです。できるだけ味がわからないように息をしないでのどの奥に流し込む飲み方をします。アルコールを味わいたいのではなくて酔いたいのです。だからちびちび酒を飲むなんてことをしないで、強い酒を一気に流しいれるのです。味なんてどうでも良いから、昔のBタイプの依存症の人たちは安くて大量に入っている2リットル以上のペットボトル(取っ手がついているやつ)の蒸留酒(甲類焼酎、ウイスキー等)を飲んでいました。今は、9%の500ml缶酎ハイが主流です。

どちらも依存になりうるし、酔っぱらえば結局問題行動を起こすので、飲まない人にとっては同じかもしれませんが、依存の機序は全く違うと思っています。

つまり、Aタイプの依存者は、酒の味やアルコールの匂いや味、もう少し言えば嗅覚や味覚及びアルコールの作用由来の触覚を通しての、中枢神経への刺激、脳の報酬系を刺激して快楽を求める形の依存症になるのだと思います。こちらが薬物依存症の王道の依存形式です。

Bタイプの依存者は、理由はともかく、先行して不安、ストレスを抱いているようです。不安を感じないためという主目的で、酔っぱらうことによって感覚と記憶の想起を遮断したいというような酔い方をするようです。元々酒が好きなわけではありませんので、早い段階で不安に対して別の解決方法を見つければ、アルコール依存症が深まることは無かったはずです。

AタイプとBタイプの治療方法は違うはずです。それにもかかわらずBタイプの患者に対しても治療等の処方がAタイプの依存患者に対する方法ばかりが選択されてしまうと、Bタイプの依存患者に対しては効果が無いということが多いのは当たり前のような気がします。この違いを見極めないで依存症とひとくくりにするところが大雑把と言いたいわけです。

急激に体を悪化させるのはもちろんBタイプです。但し、長年酒を飲み続けるのはAタイプの方なので、アルコール由来の認知症などはAタイプの方が多いかもしれません。

Aタイプの酒飲みは嫌なことがあったからそれを忘れるために酒を飲むという行動をしません。酒を飲んでも嫌なことを忘れることがあまりないからです。但し、酒を飲めば報酬系が刺激されてどうでもよくなるということはあります。
良いことがあったから、めでたいことがあったから酒を飲むみたいなことを言っていますが、酒を飲む自分に対する理由ではなく、周囲に非難されず大手を振って酒を飲むための環境づくり、すなわち言い訳ということが正確ではないでしょうか。

これに対してBタイプの依存症者は、まじめで良識的な自己や自己の行動に対する評価ができる人が多く、酒を飲むことに罪悪感を抱いているようです。人前で酒を飲もうとしないことが多いようです。家族にも隠れて酒を飲むことが多いようです。
家族に知られないための努力も細心の工夫をするようです。証拠を残さないようにコンビニエンスストアで大量のパック酒を買って、飲み終わった容器は逐一捨ててくるとか、秘密の場所を用意して飲むとかです。ストローで酒を飲むのもBタイプの人ですね。

つまみなんて用意しないのもBタイプの依存症です。つまみというのは、酒を飲みすぎて口が馬鹿になったところをリセットするためのもので、つまりは酒を味わうためにやるものです。昔のデパートのアイスクリームに添えられたウエハスのようなものです。Bタイプの人は、初めから味わうなんてことを考えていませんので、つまみをなめる余裕があれば酒を飲んでしまうわけです。酒だけを持ち込めば隠れて飲めるわけです。アルコールは肝臓で加水分解されて解毒されるのですから、水分や炭水化物を同時に摂取しないと毒が蓄積したり、肝臓に負担をかけるのは当然のことです。

Bタイプは最初は不安を感じなくする時間を作るために酒を飲んでいたのですが、依存症の怖いところは、徐々に、酒を飲んで酔っ払っていることが通常の状態だと自分自身が感じるようになってしまうところです。これは意識ではなく、無意識の心の状態です。酒を飲まない状態であることが、不安の理由になってしまうのです。

繰り返しますが、Bタイプのアルコール依存者は、社会通念とか道徳とかそういうことに照らして自分を評価することができます。酒ばかり飲んでいると、健康に悪いということももちろん自覚していますし、他人から見てだらしない人間であるとか、軽蔑するべき人間であるということをはっきり自覚しています。飲まないでいると強烈に理由なく不安が発生する上に、酒を飲むことによって自己評価が下がり、さらには社会的に低評価を受けることやっているということに基づく不安も合わせて発生するので、収拾がつかなくなってしまいます。酒をやめたいのに、意思による抑制ができないというのがBタイプなのです。ここがこの記事のキモなのです。自分の価値観、生き方よりも、不安の回避の方を優先するということなのです。

まだ黄昏時にコンビニで珍しい缶酎ハイを見つけて、路上で飲みながら帰るなんて芸当をするのはAタイプの酒飲みの方なのです。報酬系の刺激に基づく依存は、あまり罪悪感とか自己評価とかが出てこないようです。
いやAタイプの依存者の話はもうよいでしょう。それで、アルコール由来の脳疾患になったところで、あるいは肝硬変で死のうと、プラスマイナスを考えると幸せな人生だったとも思えます。問題はBタイプのアルコール依存者です。

9パーセント500mlの缶酎ハイを一本がーっと飲んで、がーっと眠れるならまだよいのでしょう。おそらく最初はそんな感じかそれより弱い感じ、350mlの缶ビールを飲めばぐっすり眠ってしまうと言っていた人が、実際はBタイプの依存症になっていくようです。薬物は耐性が生まれてしまうということが味噌です。350mlのビール(6%くらい)1本が2本になり、6%の缶酎ハイになり、やがて9%の缶酎ハイ500mlになるわけです。それも2本になり、4本になっていくようです。それだけ飲んでも、すぐには眠気も記憶喪失も起こらなくなり、不安な気持ちだけが残るようです。そうすると無意識にあるだけ飲んでしまうようです。必ずしも初めから4本飲もうとしているわけではなく、気が付けば4本開いていた。それでも足りないときに備えて、予備を買っておく。これも足りなかったらどうしようという不安を解消するための行動のようです。昔のBタイプのアルコール依存者はケースで酒を買っていたようです。

アルコール摂取の状況をとがめられて暴力的な行動をするとか、自分では恥ずかしくて酒を買いに行けなくなって家族に対して威圧的に酒を買いに行くように強制するのもBタイプの依存者にある傾向です。否定評価をされることがわかっているので、暴力的な態度で自分を防衛しているわけです。怒りが不安解消行動だということのわかりやすいサンプルです。

Bタイプのアルコール依存者には、依存するきっかけがある場合もあります。会社での人間関係の不具合、パワハラなどがきっかけになることもあるようです。
しかしながら、主婦のBタイプのアルコール依存(女性はBタイプが多いかもしれません。)に多いのが、何となく不安だ、何となく寂しいということもきっかけとしては多いようです。なんとなく料理酒を飲んでみたら、眠くなって眠ることができたという体験が、不安解消体験として学習されるのだと思います。なかなか女性の場合は、ペットボトルの酒を買いに行きにくいので、ワインなどのおしゃれなお酒を飲むアルコール依存者が多かったのは理由があることです。昨今は、スーパーマーケットやコンビニ、生協などに行けば冷蔵庫に展示されている商品の過半数の缶酎ハイが9パーセントというのは、この気恥ずかしさというストッパーが解除されてしまうという問題点もあると思います。

私はこのような9%中心の販売は大問題だと思っています。Aタイプの酒飲みは、9%の缶酎ハイなんて口に合わないから飲みません。アルコールの味わいではなく、単なるアルコール臭のぷんぷんする飲み物で、それに人工甘味料などが味付けされているおぞましいものだと感じています。40度以上のウイスキーやブランデーなどを、水も氷も入れないでありがたがって飲んで、飲み終わってもグラスに残った香りをかぎ続けるほどアルコールを求めているのに、9%のアルコール臭は別物のような感覚なのです。

だから、純粋に酔うための商品であり、依存性のある商品を大量において、しかも他の選択肢を大幅に削って売っているということは、依存性を作出して売り続けようとしているとうがった見方をされても仕方が無いと思うのです。それでも、一部の精神科医(松本俊彦先生)が警鐘を鳴らされているのは知っていますが、なぜか世論にならない。

こう考えると3%の酒や0.5%の缶酒が売られていますが、これも9%への入り口としてアルコール依存導入商品ではないかという疑いすら浮かんできました。

以前、牛丼屋のチェーン店の経営者が、生娘をしゃぶ漬けうんぬんという話をして批判を浴びました。覚せい剤も酒も、命にかかわり、社会生活に支障が出る依存性薬物であることには変わりがありません。また、0.5%、3%の酒を飲ませて、耐性を作って結局はアルコール依存症にするとすれば、牛丼のリピーターを作るということよりももっと社会的問題として議論されるべきだと私は思います。

500ml缶4本飲むというのは、アルコール換算で40度のウイスキー700mlのボトルの64%ほど飲んだ料と同じということになります。一度の飲酒機会でウイスキーの量を短時間で半分飲んでしまうということはなかなかできません。しかし、9%の缶酎ハイ4本ならば1時間もあれば飲めるかもしれません。

前日ウイスキーをボトルで半分以上飲んだら、翌日は飲みたくないということになると思うのですが、9%の缶酎ハイ4本は翌日も飲めるのではないでしょうか。アルコールメーカーと販売店であるスーパーマーケットやコンビニ、生協がこのように依存症者を作るような販売形態をしていることを批判する人があまりいないのように感じるのは私だけでしょうか。

Bタイプのアルコール依存者は、身体の影響と精神的な不安への対処という同時並行的な働きかけが必須であると私は考えています。アルコールをやめたところで不安が解消されなければ、また別な不道徳な行為、違法な行為、危険な行為に走る可能性が残されているからです。Bタイプの人間は、それらの行為が不道徳であるとか違法であるとか、危険な行為であるということはよくわかっています。本来それらの自覚が行為を思いとどまらせる役に立つはずなのですが、人一倍効果がある性格を持っている人たちなのですが、不安を解消したいという要求は、何にもまして強いということを忘れてはならないと思います。

不安というものが人間に悪さをする仕組を説明しやすい例だと思いました。




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くーろん

通りすがりです。考察面白いです。断酒会、AAなどの自助グループでは、結局、先生のB型への対応をしているように思います。依存を人間関係や健康に害を与える趣味嗜好と定義する場合、依存症の本質はB型だと思います。自助グループでは、不安を共有し、止められない酒を今日一日止めようとしています。松本先生も自助グループを指示しています。松本先生の著書にもあるように、若者のストロング缶やエナジードリンク、処方箋への依存も、不安や痛みを止めるためのもののようです。違法に走らず、合法の範囲でやっていること自体に、今の若い人の生き苦しさを感じます。
by くーろん (2022-09-05 17:40) 

ドイホー

くーろん様ありがとうございます。面白がっていただくことが最高にうれしいです。なるほどね。きちんとB型で把握していただければよいのですが、特に医療系で私から見ても厳しすぎるような対応をしているところが多いので、それでは改善できないだろうという問題意識が常々ありました。自助グループ大切ですね。エナジードリンクも依存性があるのですか。私はなんとなく不気味な気配を感じて手に取ることもありませんでした。若い人の生きづらさ、なるほどです。これからも、色々教えていただきますようお願いします。
by ドイホー (2022-09-06 10:42) 

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