いのちの電話さんとの対話 自殺予防政策とコミュニティーについて改めて考えた [自死(自殺)・不明死、葛藤]
いのちの電話の相談者の方とお話する機会がありました。
それまでに私が聞いていたいのちの電話の概要をお話しします。
いのちの電話の相談者さんは基本的にボランティアで行っているようです。ただ、実際に電話を受けるためには数年間(あるいはもっと)の研修を受けるとのことです。確かに頭で理解していても、電話で話すと失敗するということはありうることなので、いろいろな角度から実践的に研修をするのでしょう。
相談対応の方法ですが、基本的に行動提起はしないようでした。これは弁護士の相談対応とはだいぶ違うので、あまり理解ができないところでした。
ところで、自死予防とはいくつかの段階に分けられています。
一次予防とは自死リスクのある人に働きかけてリスクを軽減すること
二次予防とは自死をしようとする人の行動に介入して自死を止める
三次予防とは自死した人の遺族に対するケア
です。
私は、もっと早期に対策するべきだということでリスク者を作らない0次予防も自死予防政策として位置付けるべきだと主張しています(「自殺問題と法的支援」日本評論社)。
さて、私は、力を入れるべきはゼロ次予防だという考えです。その他の予防ももちろん大切ですが、一度リスクができてしまうとなかなか根治が難しいということがあり、リスクを作らないことが肝心だと思っています。
自死リスクとは、その人が置かれている状況だけでなく、その人の心理状態もまじえてアセスメントされるべきことですが、客観的な状態からリスクが生まれる可能性を判断して心理状態においてリスクが生じないようにするという政策がゼロ次予防ということになります。
一番は孤立があるところで、孤立の解消を進めていくという政策になります。つまり、コミュニティーを作っていくという作業がその中核になるはずです。
国の自死対策が内閣府から厚生労働省に移ったあたりから、このようなゼロ次予防に力を入れるようになったような気がします。自死予防政策の流れはこうなると、これまでは思っていました。
ところが、自殺予防地域総合計画を各自治体が策定するあたり(平成30年ころ)から、少し様相が変わってきたような気がします。「棚卸」という概念が導入されたあたりです。これまで気が付かなかった自治体の活動について、ゼロ次予防の観点から自死予防に役に立つ活動をしているはずだから、その観点から見直して、その活動も自治体の自死予防政策の内容として掲げるようになったのです。当初は、自治体の職員が、行政活動は自死予防活動であるという自覚をもって公務に当たるようになれば自治体の在り方も変わるのかなと期待をしていました。
しかし、どうやら、自治体から国に向けた報告が増えただけで、これまでの行政行為が単純に継続しているだけで、何らかの変化が無いだけでなく、本来の一次予防、二次予防、三次予防が薄くなったような印象を受けています。少し意地悪な感想でしょうか。
こういうことに気が付いたのもいのちの電話の方とお話ができたからです。いのちの電話にかかってくる深刻な電話は、まさに電話がつながらなかったら自死していたようなシチュエーションでかかってくるそうです。
弁護士の職業病としては、死のうと思った原因は何か、その原因をどのように解消するかということを考えて、相手と相談し。アドバイスをしようと考えてしまいます。しかし、いのちの電話は違うようです。
原因はどうあれ、今の気持ちを聞いてもらいたいから電話をするようです。極端に言えばただ相談者は話をして、担当者はただ話を聞くということのようです。こういうと誤解されるかもしれないのですが、案外これが難しいし、案外これがうれしいもののようです。
孤立した人が、死の間際に、一時的ではあれコミュニティーに帰属する、そうして生きる意欲を取り戻していくということのようなのです。
(オープンダイアローグに似ている感じを受けたのですが外形的には全く違います。オープンダイアローグの本質が、このコミュニティーの形成ということなのかもしれないとも思いました。)
まさに二次予防とはかくあるべきというような強烈な印象を受けました。ゼロ次予防から三次予防までも、結局コミュニティー形成の観点から再構成する必要があるのではないかと考えている次第です。
いのちの電話はなかなかつながりにくいということを聞くことがあります。ボランティアでの仕事ですし、十分な研修をしなくてはならないので、電話の担当者がどうしても足りません。しかし、命を救うということに関しては大きな効果があります。
国は、ボランティアに頼らず、このような二次予防の対策をどんどん構築するべきだと思います。また、それができないならば、このような団体にこそ少なくても財政的支援を行うべきだと思いました。
2024-11-22 09:47
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