家族の機能④ 現代という小集団を形成する必要性のない環境の中の家族 [進化心理学、生理学、対人関係学]
現代社会、特に日本では、人間は野生動物から隔離されていて、熊が街に現れればニュースになるほどです。少なくとも、家の中にいればクマに襲われるということも無いでしょうし、町中であればその心配さえ少ないわけです。この意味で、つまり、他の動物に捕捉されないという観点から群れを作る必要性は消滅したようにみえます。
お金さえあれば、食糧が見つからず飢えるという心配もありません。
子育ても、お金があれば、あるいは自治体の支援があれば、大変なことですが一人でやりきることができそうです。
小集団を形成する即物的な理由だけを見れば、家族を形成する必要のない環境であることになってしまいそうです。
では、メンタルないし生理的な理由はどうでしょうか。
昼間の交感神経が活性化されている状況を考えてみましょう。これを一言で言えばストレスを感じているということです。
昼夜の区別がない人が増えていることとは思いますが、多くの人は、昼間に学校や仕事に行って、夜に家に帰ってきます。
職場、学校、あるいは道を歩いていたり、商店で店員さんと会話をしたり、様々な人間関係を形成しています。普段は意識しませんが、ふと地域や国家の一員として人間関係を持たなければならないこともあります。
人間関係は癒しにもなりますが、ストレスにもなることは誰しも経験していることだと思います。
このようなストレスであっても、交感神経は活性化してしまい、血圧や脈拍が上がって、臓器を取り囲んでいた血流が筋肉に流れやすくなってしまいます。上司や同級生との関係でのストレスなのに、人間の体は走って逃げたり、腕力で相手を叩き伏せようとしたりする準備を始めてしまうのです。
対人関係上の不安も、生じやすくなっているともいえるでしょう。
このような生理的現象面(ストレス)から見た場合、狩猟採取時代の肉食獣が人間に置き換わったような様相すらあります。これはどういうことなのでしょうか。
狩猟採取時代の関係する人間と、現代社会でかかわりを持つ人間とは、大きく異なっている。それは環境と人間の知能によってそうなっているのです。
狩猟採取時代の人間(他人)は、生まれてから死ぬまで同じ群れで寝食を共にしていました。それ以外の人間と出会うことはほとんどなかったわけです。人数も数十人から150人程度の群れだったと言われています(ロビン・ダンバー先生の各著述及び前掲「人体」)。それぞれ個体識別ができ、それぞれの性質も熟知していたし、運命共同体という利害が一致した関係でした。よほどの突然変異的行動を起こさない限り、それぞれが助け合い、分け合って、守りあって生活していたものと思われます。人間の「こころ」というツールがよりよく機能していたわけです。
逆に、そういう「こころ」を持てない個体やグループは、厳しい自然環境に耐えられず、飢え死にしたり、肉食獣に捕食されたりして死滅していたわけです。「こころ」というツールによってぎりぎり生き延びることができたというわけです。
ところがこの環境(一つの群れ、小人数の人間関係)は、現代社会では跡形もなくなったと言えるくらい変化してしまいました。家族、学校、職場、地域、社会、国家、インターネット、商店や病院等の一時的な関係と、群れならいくらでもあるし、かかわりあう人間関係は名前も覚えられないし、初めから名前を知ろうとも思わないことでしょう。その人の個性を重視していたらきりがないからしないわけです。
このような環境の中では、我が身を捨てでも、その人を守ろうという気持ちになることは一般的には期待できないことです。自分の些細な便宜のために、誰かを攻撃してしまうことだって起きています。深刻な被害が生じることも日常ありふれています。
まさに、ストレスの観点からすれば、現代の肉食獣は人間だということになると思います。また、人数が多いために生じる孤立も、いじめやパワハラなど減らない状況です。
人間が進化の過程で獲得した「こころ」というツールは、機能しにくくなり、「こころ」を持つがために、逆に傷つきやすくなっているのが現代だと思われます。
いじめ、パワハラ、虐待、炎上、セクハラ、モラハラ、嫌味、足の引っ張り合い等々、環境によってストレスが絶え間なく存在することが現代社会の特徴であると思われます。
このような社会病理のストレスに対して、一つ一つ解決できればそれが一番ですが、解決できなくても、家族の中に戻って、狩猟採取時代の小集団のようにそれぞれが助け合い、分け合って、守りあって生活ができれば、ストレスが軽減しますし、何らかの解決方法が見つかる可能性も増えると思われます。
現代のストレス社会にこそ、家族は機能を発揮することが求められているのだと私は思います。
2025-01-08 11:54
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