企業不祥事の際の第三者委員会とは [労務管理・労働環境]
現在テレビ局の不祥事で、「第三者委員会」が話題になっています。日弁連のガイドラインという言葉も出ているのですが、これは必要最低限度の準則を定めているだけです。このガイドラインだけでは第三者委員会が何をするのかよくわからないのではないでしょうか。
<第三者委員会の目的>
第三者委員会は、企業を糾弾するためにあるのではなく、企業の再生に向けて調査、提言をする組織です。もっとも、実利的には、きれいごとだけではなく、第三者委員会の調査によって、当該企業が再出発する可能性のある企業だという信頼を回復して、安心して取引をしてもらい、落ち込んだ取引、収益を回復させる目的があります。
つまり否定評価するだけでは足りないということです。しかし、甘い評価だと、再発が懸念されてしまいます。そうするとせっかく行った調査委員会の調査検討が無駄になってしまいます。過不足なく科学的に調査検討する必要があります。(あたかも刑事弁護で、被告人がやった罪を軽減する弁護だけをすると説得力がなくて弁護をした意味がない判決が出るようなものです。)
<調査検討するべき基本事項>は目的を踏まえると以下の通りです。
1 どのような事実が起きたのか。
2 その事実の問題点ないし評価
3 その事実が生じた原因(短期的原因と長期的原因=体質)
4 原因を除去するための必要事項
5 同種行為が再現されないための方策
こんな感じでしょうか。これは、起きた事実によって多少のバリエーションが生まれるでしょう。抽象的な言葉で反省をしてしまうと、説得力がありません。取引先はそんな抽象的な文言では納得しません。なるほど、こういう改革を実際に行うのだなということが絵に描けるように説明されることが有効です。
<第三者委員会の構成>は以下の通り。
1 弁護士
わかりやすく言うと、特別予防型刑事弁護そのものです。処罰されるわけではありませんが、「反省」を述べて、再発防止の援助をするということです。また、事実認定と事案の原因究明においても、本来弁護士は職業的に鍛えられているはずです。繰り返しになりますが刑事弁護と構造的には同じことをします。ただ、近年の弁護士が本当に実務的にこのような作業をしているのかは怪しいところがあるので、人選は吟味する必要がありそうです。
弁護士は、複数名いた方が良いと思います。
2 公認会計士
企業の場合は、経営問題だけでなく不祥事についても、適法性監査、妥当性監査の視点は必要だと思います。また、将来的な再建の提言をする場合も公認会計士の知識と経験は有効だと思われます。
3 心理学者(社会心理学)
企業不祥事は、一人だけの責任で起きるということはほぼありません。これが横領事件だとしても、それを許してしまう制度的隙間、人間関係の隙をついて行われることが多いでしょう。また、その他の不祥事で、不祥事を見ていたり、知っていたり、あるいは加担したしながら有効な対策につながらない場合やとるべき対処をしない場合もあります。どのような人間関係であったために、その不祥事が完成し、長期にわたって続いたのかということを、集団心理のプロが分析する必要があると思われます。科学的な評価、再発防止策を行うなら専門家を入れるべきです。
4 その他事案に応じた専門家
その事実に通じている人が入ることが必要なことがあります。ただ、逆に、その不祥事の背景を理解しすぎて寛容になってしまうと第三者委員会という外部者の視点が損なわれる可能性もあるので、微妙な話です。
<どのように依頼するか>
実はなかなか難しいのは、委員の人選です。
委員の人選にあたって、一番気にする必要があるのは<公正の外観>です。例えば、その企業の顧問弁護士やよく事件を依頼する弁護士を第三者委員会にすることはよろしくありません。経営陣との人間関係によって調査をその経営陣に不利にならないようにまとめると思われてしまうことは第三者委員会を開催する目的を達することがなくなってしまうからです。
弁護士会などの団体からの推薦を受けるということが一つ考えられます。これは公正の外観としては文句のつけようがないのですが、人選に時間がかかるという問題が確かにあります。例えば、公認会計事務所など、外部監査をする大きな事務所で、その企業に関係のない事務所に人選をゆだねるということも選択肢としてはありうるのかもしれません。
なぜ、公正が必要だと言わないで、公正の外観が必要だと言ったかというと、おそらく顧問弁護士であっても、日弁連のガイドラインにしたがって誠実に調査検討をすると私は思っています。手心を加えるということは実際は難しいことです。また、根本的には企業の再建、将来の維持のために行うわけですから利害対立はないはずなのです。しかし、弁護士と企業担当者の付き合い方は、その企業、その弁護士それぞれですが、長い付き合いともなれば個人的癒着を疑われることは致し方ないところです。せっかく第三者委員会を開催するならば、そのような無駄な疑惑の持たれない形で行うことが目的に適うということなのです。
人選自体が、第三者委員会を開催する目的に関連するので、第三者委員会の委員のメンバーは公表することが望ましいのは間違いありません。
<期間の問題>
このとおり本格的な第三者委員会の調査をするならば、テレビ局の問題は数年かかってもおかしくありません。しかし、3月末までに調査結果をまとめるということが発表されています。これでは、第三者委員会をせっかく開くのに、期間が短すぎるために、きちんと調査と評価を行ったと評価されない位という心配が出てきてしまいます。
もっとも、取引の回復の観点からは、早期回復を求めたい、次の取引時期に間に合わせたいという意向も分からなくはないです。これが仮に、取引先との間で、第三者委員会の調査と報告があれば、取引を再開するという密約があらかじめあるのであれば、それでも良いのでしょう。しかし、そうではない場合は期間の短さによって第三者委員会を開催した目的が失われてしまう危険性も考えるべきだと思います。
とりあえず、3月末は「第1次報告」という形にしておくことをお勧めする次第です。
2025-01-28 13:34
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