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対人関係学のピンチ 対人関係学は進化心理学の劣化版だったのか 平成30年上3半期の読書研究 [閑話休題]

今年になっての勉強から、進化心理学までたどり着いてしまった
ということなのです。

お正月休みに読んだ本が
ダニエル・カーネマンの「ファストアンドスロー」
ものすごく面白くて、
それまで読んだ行動経済学(マイケル・ルイス、リチャードセイラー)
よりも、しっくりくるというか
今年1年の収穫だと思っていたのです。

この人は、ノーベル経済学賞を取っていますが、
れっきとした心理学者で、
後で(昨日)気づいたのですが、
認知心理学者に分類されるようです。

そうしたら、すぐに、
ダニエル・リーバーマンの「人体」に夢中になってしまい、
もう、心理学をやっている場合ではないという気になってしまいました。
この人は、進化生物学の学者さんで、
ネイチャー投稿数の断トツ一位の人らしいです。

完全に対人関係学のエビデンスになっている!
と飛びついたわけです。
もうこの歳になると、
ノートを取りながら出ないと頭に入らないので
読むのに時間がかかります。

こういう本を読んでいるのは、
半分以上仕事のためです。
過労死事件は、まさに仕事ですし、
自死対策は、
私の公的活動の大部分を占めますので、
やはり、ある意味大切な仕事なのでしょう。

それから、4月に過労死弁護団の拡大幹事会で、
慢性持続性ストレス
というよだれが出るほど、待ってましたという検討課題が提案され、
初心に立ち返り、というか初めて読んだのですが、
ストレスの創始者、
キャノン「からだの知恵」
セリエ「現代社会とストレス」
を読みました。

特にキャノンが面白くて、
今まで私がおっかなびっくり
交感神経ってこうであるはずだ
と語っていたことがすべて書いてあって
感激しました。

キャノンが先行するのですが、
セリエとキャノンは交流があり、
セリエは、キャノンの人格をわざわざ論じているほどです。

そういう人間関係も面白いのですが、
キャノンは交感神経の活性化という視点で、
ストレスという言葉を使いません。

セリエは、ストレスという言葉を
現在言われているストレス反応に当てはめ
ストレッサーという言葉を作った人で
それぞれが学問を発展させてきたことがわかります。

何かのきっかけか忘れたのですが、
やはり、意識の二重構造について人に説明する必要が出てきて、
改めてファストアンドスローを読んだのですが、
ありゃりゃ、読み落としていたのか、意味を理解しなかったのか
ものすごい知識が詰め込まれていることに
改めて驚きました。

私のというか対人関係に大きな影響を与えた
バウマイスターの研究が多く引用されており、
これは何としても読みたいなと思うのですが、
彼の論文は日本語になっていません。
英語で読もうとしてもなかなか入手ができず、
何とか入手しても、
文節が長すぎてなんだかわからなくなることが多くて
うんざりするわけです。
彼の論文の邦訳がされないのに、
批判論文だけは日本語で紹介されるという
奇妙な現象があることをお知らせしておきます。

この批判論文は、題名を見ても
政治的観点からの批判であることがわかります。

過労死や自死を防止しようという熱意よりも
防止する活動を妨害しようとする熱意の方が高い
ということがうかがわれます。
こういう所は見習うべきかもしれません。

さて、意識の二重構造ですから
カーネマンが引用していた
キース・スタノビッチを読むことが自然な流れなわけです。

苦労して遠くの図書館から借りてきた本
「心は遺伝子の論理で決まるのか」<品切>の
現代版「現代世界における意思決定と合理性」が後から取り寄せられ、
大事なことがほとんど書いている上に
翻訳者が原語を翻訳する過程を脚注に事細かく書いていて
はじめからこれだけ読めばよかったのかもと思うこともありました。

キーススタノビッチは、バリバリの認知心理学者だと思うのですが、
当然受け入れながら批判する対象が
進化心理学というわけです。

ダニエル・リーバーマンが引用した
ドブジャンスキーの
「生物学におけるいかなるものも
進化の視点からでなければ何も意味をなさない」
という言葉をストレートに影響を受けていますから、
心理学だってそうだ!と意気込んでいたわけです。
これは対人関係学しかないと思っていたのに、
ああ、やっぱりあったのねということで
進化心理学にたどり着いた次第です。

進化心理学については、ウィキベディアが要領よくまとめています。
最初はわかったようなわからないような感じだったのですが、
ちょっとかじると要領よいことに気が付きます。

進化心理学者は仮説構築のためのメタ理論として一般的に次のような前提を置く。
1 体の器官はそれぞれ異なる機能を持っている。心臓はポンプであり、胃は食物を消化する。脳は体の内外から情報を得て、行動を引き起こし、生理を管理する。したがって脳は情報処理装置のように働く。脳も他の器官と同様、自然選択によって形作られた。進化心理学者は心の計算理論を強く支持する。
2 ヒトの心と行動を理解するためにはそれを生成する情報処理装置を理解しなければならない
3 我々の脳のプログラムは主に狩猟採集時代の経験と選択圧によって形成された。
4 そのプログラムが引き起こす行動が現在でも適応的だという保証はない。
5 恐らくもっとも重大な点は、脳は様々な問題に対処するために多くの異なるプログラムを持つ。異なる問題は通常、異なる進化的解法を必要とする。このプログラムの一つ一つが臓器と見なすことができる。
6 心のプログラムは我々の経験を再構成し、判断を生成し、特定の動機や概念を生み出す。また情熱を与え、他者の振る舞いや意図の理解に繋がる文化普遍的な特徴を与える。そして他の考えを合理的である、興味深い、忘れがたいと感じさせる。プログラムはこうして人間が文化を創る基盤の役割を果たす。

対人関係学のたどり着いた主張と酷似しています。
1から4までは全く異論がありません。
3なんかは、どうしてこうなるのというくらいです。
本当は、対人関係学の独自の発見だと思っていたのにと悔しいのが本音です。
5,6もほとんど異論がありません。

じゃあ、対人関係学は進化心理学であり、
今さら畑違いの素人が参戦することはないのか
ということになり、夢も希望も無くなるのか
ということになりそうなのですが、
どうやらそうでもなさそうなのです。

一つは、クロスオーバーしない部分が重要ではないかということです。
進化心理学はドーキンスの影響を強く受け過ぎているのではないか
それに対して、対人関係学は、
キャノン(後付けっぽいのですが)、リーバーマンの名前は
進化心理学ではあまり出てこない

バウマイスター、アントニオダマシオは認知心理学では引用されますが
進化心理学ではそれほどでもなさそうです。

自死に関しての知見は、あまりないようです。
過労死については特にない。

この根本的な違いがやはりありそうで、
文字通り、対人関係という環境を重視するのが
対人関係学ということになりそうです。

それから、東洋的なアドバンテージがありそうです。
スタノヴィッチもそうなのですが、
ドーキンスの影響を受けているようなのですが、
まだまだ乗り物としての割り切りがない。
遺伝子への反逆なんてことを言っている。
正直このあたりが理解が遠いところです。

禅の思想なのかどうなのか責任あることは言えませんが、
ただ、あるがままの姿を受け入れる
ということが東洋的な高次の境地ともいえるものだとすると、
こういう境地になれるかどうかはともかく
こういう考えもあるということを知っている
あるいは感覚的に理解できることが
人間に対する科学にとっての
大きなアドバンテージになるだろうと
感じた次第なのでした。






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