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前編:仲の良かった夫婦が子どもが生まれると対立する理由 後編:他人に感情移入できない人の重要な役割 [進化心理学、生理学、対人関係学]



<前編>

前回のこのブログで
出産後の母親が子どもに感情移入するあまり
父親に感情移入できなくなる
ということをお話しました。

つまり人間の脳は、それほど優れているわけではなく、
赤ん坊に感情移入すると
赤ん坊以外に感情移入する能力がなくなってしまう
ということでした。

この記事を書いた直後の日、ネット記事で、
上の子と歳の離れた子を出産したお母さんが、
下の子が可愛くて、上の子に違和感を持った
ということを書いたものを読みました。

同じ現象が起きているようです。
どうやら、新生児の魅力というものは
それほど大きいようです。

実は
自分で書いた記事なのですが
直後からふつふつと疑い出していました。
それは、子どもに感情移入するあまり、
大人の感情に感情移入できないというのは、
母親に限った話ではないのではないか
ということです。

父親でさえ、
子どもに感情移入してしまうあまり、
子どものためということなのですが、
ついつい母親にきついことを言ったり
配慮のない言葉をかけることも
あるのではないかということです。

ついつい小言が増えるわけです。
子育てしながらスマホをいじっていることが
小言の種になることがどこにでもある風景ですが、
それまで何にも気にしてなかったのに、
掃除をしないことに神経過敏になったりします。
赤ん坊にきれいな空気を吸わせたいということなのですが、
言い方がきつくなったり、
声が大きくなったりするということは
ないでしょうか。

これらは、人間が群れで生きるための、
一番弱いものを守ろうとする仕組みです。
弱い者に感情移入し、
弱い者の苦しさや痛みを理解しようとして
弱いものをできるだけ快適に過ごさせるということです。

だから、こうなってしまう人は
本当は優しい人なのでしょう。
優しさゆえに、一番弱いもの以外の人間に
感情移入できなくなり、きつくなる。
これが、赤ん坊が生まれる前には仲の良い夫婦が
喧嘩をする大きな理由の一つであることは
間違いないようです。

これを防ぐ方法の一つが
子育ては母親に任せて
父親は口出ししないというルールの下で生きる
戦前の生活に余裕があった時代の日本などが
選択した行動様式でした。

今は、そんな余裕はありません。
しかし、子どもを愛するゆえに
パートナー同士が傷つけあうということは悲劇ですし、
子どもにとっても深刻な影響が生じます。

現代社会における解決方法は、
そういうものだということを自覚するということです。

人間の脳は、あっさりと限界に達してしまうので、
子煩悩な大人を自覚する人は、
反射的に大人同士、傷つけあってしまうという
エラーを起こすものだということを自覚することです。

これを自覚していれば
上手くいけば配慮のある言動や発想をすることができますし、
うっかりきついことを言っても
あっ、そうだ、やっちまったと気が付くことができます。

ところが自覚していないと、
自分は弱いものを守ろうとしているという
妙な正義感を感じていますから、
相手に対して注意することは正義だという感覚で、
どんどん苛烈になっていきます。

自覚して、やっちまったと思ったときに
自分の言動を自分で声に出して戒め、
きちんと謝りながら、
相手をねぎらう言葉を
「わざとらしく」相手に伝えることが必要です。

相手は言葉で言われなければわからない状態にあるからです。

出産後は、出産前と比べて
よく話をして、よく話を聞くという
言葉のやり取りがとても大事になってきます。
頑張るポイントはここにありそうです。

<後編>

新生児に限らず、
弱い者をかばうということが
人間の紛争の種になることは
よくあることです。

学校でのいじめは、
誰かをかばうために、誰かを攻撃するところから
始まることがよくあります。

職場やボランティアなどの社会活動でもそうです。

自分をかばう人がいて、
その人をかばおうとする人がいて、
そうして、相手を攻撃しています。

あとで考えると
攻撃された人のほうが弱者だということも
よくあります。

これは、身近な人が弱者だと感じやすい
錯覚が起きやすいということです。
身近な人の喜怒哀楽はよくわかるので、
身近な人には感情移入しやすいのです。
その人が困っていると感じれば、
その人を守ろうとしてしまうみたいです。

我々相談を担当する者も似たようなところがあります。
目の前の相談者に感情移入しやすいことは当たり前です。

夫婦の問題を相談されているときに
例えば相談者が妻だとして
自分はこんなに苦しい思いをしていると言われれば
なるほど大変でしたねといえる相談担当者でなければ
失格だということができます。

そんな時、目の前の相談者から聞かされる
夫のほうに感情移入することは
滅多にありません。
人間の脳は、それを自然とできるほど
理路整然としたうえに、想像力が豊かだ
というわけではなさそうです。

こういう普通の限界だらけの脳の相談担当者が
この世の中善と悪しかないという二元論に立ってしまうと
妻を苦しめる夫は悪いやつだということに
単純に陥ってしまうわけです。

妻の話に調子を合わせているほうが楽ですから
真実を探求することが面倒くさいのかもしれません。

それもこれも、紛争当事者の一方に感情移入すると
他方に対しては感情移入しにくくなるという
人間の脳の限界に理由の一つがあったようです。

特に弱者を守ろうとして
相手に配慮ができなくなるという類型の
対人関係の紛争、仲間割れには、
常にそのような宿命的な事情が存在するようです。

こういう時一番役に立つ人は、
誰にも感情移入しない人なのです。
どちらにも感情移入せずに、
冷静にどちらがどうすると
本来の優しがはっきりわかり、
相手と争わなくて済むかということを
言い当てることができます。

ただ、他人に感情移入できない人は
このような紛争を仲介しようとしないという宿命があります。
そのため、紛争介入にこの人を利用しようとする
比較的冷静な人が必要です。
感情移入しない人をプロデュースする人ですね。

そうやって、必要な時に発言してもらう
人間関係を作っていられる人です。

皆で微修正して
結論にいたる。

段々感情移入できない人も
双方の紛争を沈めたり
重宝されるとうれしいですから
積極的に介入しようとしてくるでしょう。

もしかしたら、
狩猟採集時代のリーダーや
その終期の道徳の萌芽を形成した人は
このように感情移入ができなかった人
なのではないかと考えているところです。

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