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やっぱり保護命令手続の現状の運用はおかしい [家事]

この他に、口頭弁論を経ても理由を付さないとかいろいろ問題があるようです。


1 保護命令の要件 重大な危害の具体的危険の存在
保護命令は、「被害者が更なる配偶者からの暴力によりその生命又は身体に重大な危害を受けるおそれが大きいとき」(配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律10条)に発令される。
この保護命令に違反した場合は、「一年以下の懲役または一〇〇万円以下の罰金」(同法29条)に処せられることに照らすと、上記発令要件については、単に将来暴力をふるうおそれがあるというだけでは足りず、従前配偶者が暴力をふるった頻度、暴力の態様及び被害者に与えた傷害の程度等の諸事情から判断して、配偶者が被害者に対してさらに暴力をふるって重大な危害を与える危険性が高い場合を言うと解するのが相当である。同旨東京高等裁判所平成14年3月29日決定(判例タイムズ1141号267頁)。
   そして上記高裁は、「これを本件についてみると、前記一の認定事実によると、抗告人は、平成八年以前にフィリピン国滞在中に相手方に暴力を振るって傷害を負わせ、また、平成一三年一月一三日に抗告人が相手方の身体を蹴ったりするなどの暴力を振るって抗告人に外傷性頸部症候群及び全身打撲の傷害を負わせているが、平成一四年一月二日には、抗告人か相手方の手をつかんで相手方を戸外に引っ張り出したことを超えて、抗告人が相手方に傷害を負わせたということはできず、その後に、相手方に暴力を振るったという事実もない。したがって、以上の事情によれは、抗告人か相手方に対して更に暴力を振るって相手方の生命又は身体に重大な危害を与える危険性が高いということはできないというべきである。」としている。
   結局、上記高等裁判所は、懲役1年以下という重い刑罰が予定されている保護命令を相手方に課すためには、配偶者暴力が、生命身体に重大な危害を与える具体的危険が存在することが必要であり、抽象的な危険では足りないということを判示していると解される。これは正当である。

具体的事実は略

7 手続進行に関する意見
  保護命令の手続きは法21条によって、民事訴訟法の適用を受ける。民事訴訟法は、国民が正当な訴訟活動を行わないで、その権利を奪われないように、被告の権利を守るための手続きが定められている。民事訴訟法のこのような被告の権利擁護のための手続きは、憲法31条、13条で定められる適正手続きの補償からの要請でもある。
  確かに、保護手続きの規定は迅速な手続きも要請している。しかし、一方、保護命令が発せられると、相手方は、1年以下の懲役又は罰金100万円以下の刑罰の威嚇のもと、わが子との連絡すら事実上とれなくなる。刑務所に収監されても我が子と会うことを国家は禁止しない。このように本来自由であるはずの穏当な交流すらも公権力から刑罰の威嚇をもって禁止されることは、父親として、配偶者として失格の烙印を押されたと受け止めるものである。その喪失感、自分の力では何ともならないという閉塞感は強烈なものである。しばしば、真実に反する内容で保護命令が出された事例を中心に、相手方に精神障害が生じている。自死が起きることも少なくない。また相手方は子どものコミュニティーにかかわることができなくなる。子どものコミュニティーを中心に、自分の配偶者の生命身体に重大な危険を与える人物であるとの評価が公のものになる。自己の社会的評価は著しく低下する。国家権力の強制において実現させられるのである。保護命令が発せられたものは、屈辱感とともに、大きな疎外感を与えられ、心理的負荷は甚大なものとなる。
  保護命令の手続きにおいては、緊急性がある事情が示されている場合を除いては、民事訴訟法の定める相手方の権利を守るための手続きは、迅速性の要請があっても省略されるべきではない。
  ところが、保護命令手続は保全手続きではないにもかかわらず、申立書副本の送達はなされない。送達とは民事訴訟法においては、送達場所を届けない限り、書留郵便において行わなければならない。しかし、そのような扱いをしていない。本件でも、裁判所からの発送が×月1日で、普通郵便で相手方の住所地のポストに投函されていたため、宿直明けの×月3日になって初めて保護手続きが申し立てられたことを相手方は知った。加えて、意見書の提出が同月7日までと定められており、その間5日しかない。しかも間に土曜日と日曜日を挟んでいる。これでは、有効な反論、防御を行うことは不可能である。また、自己の重大な権利を奪われる可能性、人格を侵害される可能性があるにもかかわらず、弁護士との打ち合わせも十分に行うことができない。代理人選任権も事実上奪われている。司法統計上も、保護命令事件の代理人選任率は異常なまでに低い。民事訴訟法の定める民事的な手続き補償がなされない状態であると言わざるを得ない。
  刑事事件でさえも、無罪推定の原則がある。被疑者被告人の防御権が手厚く保障されている。ところが、保護手続き命令の手続きにおいては、このような防御権は極めて脆弱である。それにもかかわらず、保護命令が発せられると、暴力や脅迫などに該当しない、自己の配偶者や子どもと面会するという人間として自然な感情に基づく行為、本来国家が関与するべきではない私事に対しても刑罰の適用となってしまうのである。これでは犯罪を実行した場合に刑罰が科せられる刑事事件よりも過酷な手続きになってしまう。刑事事件に比較すると防御権はほとんど認められないのと同じである。
  また、保全手続きではないことは、民事訴訟法が準用されていることや、相手方の反論権が形式上認められていることからも明らかである。保全手続きは、本案で争うことができる。ところが、保護命令に本案はない。子どもたちと会えない期間は取り戻すことができない。保護命令によって面会ができないことに伴う周囲の評価、配偶者の生命身体に重大な危険を与える人間だという評価も回復する方法がない。
 このような重大な問題をはらむ保護命令手続であることに鑑み、拙速な審理を回避し、改めて相手方に十分な防御権を行使し得る状態にするべく、反論の準備を改めて補償するべきであると考える。3週間後に改めて口頭弁論期日を設けるべきであると考える。また、事実認定は証明によって行われなければならないと考える。


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