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連れ去られた子どもは、なぜありもしない別居親の虐待「体験」を語るのか [進化心理学、生理学、対人関係学]



面会交流調停事件で、面会交流実施を拒否する理由として挙げられるのは、
「同居していたとき、今別居している親から虐待を受けたので
子どもが会いたくないと言っている。」
というものである。

確かに、虐待とまでは言えないとしても
別居親から厳しくしつけられていた場合、
子どもは、別居親に対して拒否反応を示すケースは実際あった。

しかし、大半のケースでは、そのような主張があった場合でも
試行面会をすると
子どもは、別居親と久しぶりに顔を合わせると
満面の笑みで別居親と遊んでいる情景を見ることになる。

調査官調査でも、子どもが父親の虐待をほのめかすケースであっても
同様である。
実際には虐待はなかったのである。
では、どうして実際にはなかった虐待を
子どもは調査官に訴えるのだろう。

答えは簡単かつ単純で、
虐待があったという暗示をかけられたため
実際にはない虐待があったという記憶が作られるからである。
子どもは暗示にかかりやすい。

ただ、同居親が意図的に子どもに虚偽の事実を思い込ませようと
一生懸命暗示をかけたとしても
それはなかなか成功せずに
調査官によって見破られることが多いようだ。

能力が高く意欲がある調査官は
子どものリアルな反応を抉り出して報告する。

そのような調査官でもうっかり子どもの申告を信じてしまうのは、
ある意味偶然暗示がかかった場合が多いように感じる。

ある事例を内容を改変して例に挙げる。

別居2年たった調査官調査の事例である。
調査当時小学校2年生であった。8歳になっていた。
昆虫が嫌いな女の子だった。

その子は調査官に対して父親と面会することに抵抗があると言い、
その理由として夜に父親が自分を物置に閉じ込めたからというのである。
その物置に閉じ込められたという時期は
なんとその子が2歳半の時、
5年以上も前のころのことだった。
もちろん別居前までの父と娘の関係は良好である。

調査官はそれを真に受け、
その子どもに対して父親は対処しなければ
面会は実現しないだろうと言った。

しかし、実際は物置に閉じ込められた事実はなかった。
真相はこうである。
その夜
母親が用事があり実家にお泊りに行き
家では父親と2歳半の娘がお留守番をしていた。

娘がぐずって言うことを聞かなかったので、
父親は、そんなにいうことを聞かないならば
物置に連れて行くよと説教をした。
ここまでは正しい。

その物置は家の外にあり、
簡易な造りのため、バッタやセミなどが入ってくることがあった。
それまで物置に特に強を抱いてはいなかったが
2歳前くらいに一人で物置を開けたときに
大きなバッタが飛び出してきて体にぶつかってから
その子はその物置にとてつもない恐怖を抱くようになった
というのである。

父親は子どもの腕をつかんで玄関を出て物置に向かうふりをしたところ、
腕が異様に暑いことに気が付いて
子どもが風邪をひいていたことを理解した。
ぐずっていたのは体調が悪かったからだということを理解し
父親は子どもに謝罪して救急外来に連れて行った。
これが真相であり、裏付けもあった。

子どもは物置が怖かったため
父親がいないときに母親に告げ口をしたようだ。
物置がいかに怖いかを切々と訴えたのかもしれない。

しかし母親は大したことではないと思い
いいかげんに聞いていたようだ。

子どもは父親と別居後、
年相応のわがままを言って母親を困らせることがあったようだ。
そのたびに母親から「物置に入れられても仕方がないわがままだ」
と叱責を受けたようだ。
そのたびに、子どもは、
自分は「わがままを言って父親に物置に入れられたことがある」
という記憶が植え付けられていった。

「自分はどうして物置に入れられたのだろうか」
という質問を母親にした時に
「それはあなたがわがままを言ったからでしょう」
と返されていたということである。

物置に入れられるという恐怖が
記憶の中で入れられて怖い思いをしたという風に改変され、
それが母親の物置に入れられたことを肯定する返事があったために
自分は父親に物置に閉じ込められたという記憶が定着したようだ。

このケースは、本来、
2歳半の記憶以外は、父親に抵抗のある理由が語られなかった
ということをむしろ重視するべきである。
実際はなんとなく会うことが怖いというに過ぎない。
その後の数年間は、何の問題もなく父親と同居していたのである。

子どもの、特に幼少期の記憶を真に受けてはならない。
通常記憶通りの出来事は存在しないと考えるべきである。

このケースのような知的能力や記憶力の高い子どものケースでなくとも
子どもなりに、恐怖や嫌悪、不安の体験は存在する。
その理由がわからないまま疑問として抱えている記憶がある。
そのような場合、同居親が
その不安を別居親に結び付けて暗示をかけると
子どもはたやすく別居親と負の感情を結び付け
子どもなりに合理的に虐待の記憶を「作り出す」可能性があると考えている。


子どもの証言は吟味する必要があるということもそうだけれど
子どもに恐怖を与える方法でしつけをすること自体を
親は控えるべきなのだろうと思う。



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