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ヒューマンエラーの原因としてのストレス(交感神経の慢性亢進) エラーの出方と理由 [事務所生活]


1 大規模な工作物の爆発等の事故が起きると、その原因として、機械やシステムの問題ではなく、それを運用する人間のミスが指摘されることがある。チェルノブイリやスリーマイルの原発事故や、航空事故等においてヒューマンエラーという単語はよく耳にすることと思う。

  しかし、ヒューマンエラーは、確かにシステム不具合の原因であるが、ヒューマンエラーは不可避的に起きるものではなく、何らかの人的な対応の不備などの理由によって起きる結果だという考え方がある。
  人間工学において、ヒューマンエラーの原因を解明し、システムやシステム作動上の運用における対応を研究する分野があるという。昨今注目を浴びているとのことである。

2 ヒューマンエラーが結果だということは、わが対人関係学の主張と同じである。対人関係学は、人間関係をシステムとみるのであれば、ヒューマンエラーを招いた人間関係の不具合を研究し、予防に活かす学問だからだ。

  対人関係学におけるヒューマンエラーは、自死を頂点とし、離婚、職場の在り方、犯罪等社会病理である。これに、多重債務や、いじめ、DV、過労死等が含まれる。

  このうち、自殺者数、失業者数、犯罪認知件数、離婚数、破産申立件数が連動することは統計学的に裏付けられている。これらをヒューマンエラーだとするとその共通項こそ、ヒューマンエラーの原因である可能性が強い。少なくとも対人関係におけるヒューマンエラーにおいては関連付けられる可能性がある。

3 私は、これらの社会病理に共通するものとして、交感神経の持続的亢進、即ちストレスを考えている。

  ストレスは、キャノンやセリエといったストレスを発見した研究者によれば、身体、生命の危険に対する生理的反応だということになる。体温、血圧の上昇、脈拍の増加、血流の内臓から筋肉への移行等である。逃げるため、あるいは戦うための合理的な反応である。

  しかし、対人関係学は、交感神経の亢進の効果として、さらに、アントニオダマシオの言う前頭前野腹内側部の機能低下ないし停止があると考えている。

  即ち効果的に逃げたり戦ったりするために、複雑な思考を停止し、全力で逃げる、全力で戦うという思考パターンに入る反応である。

  まず、思考のテーマが、危険が維持されているか、脱却し安全な状態に達したかということだけになる。そうなると、択一的思考に自然に陥る。状態に関する、程度とか、割合とか、そういう中間的評価ができにくくなる。メリットデメリットを上げて検討するということはしにくくなる。視野狭窄も同じ仕組みであると思う。

  付随して、将来的なことについて思いめぐらすということができず、今の状態を知覚することが、知情意の中心テーマだということになる。その続きを考えることをしなくなる。

  極度に危険を感じやすくなるために、自己防衛的発想が強くなる。タイミングや条件によって、攻撃的傾向、逃避的傾向が現れる。共鳴力、共感力は排除される。自分を守ることだけがテーマになるので、不要なものとなる。

  早く安全という結論がほしくなる。焦りが生じ、段取りを立てることが苦手になる。多少の難点があっても、結論を求めてしまう。

4 交感神経が亢進している結果、具体的には、以下のような真実発見や、冷静な職務遂行を妨げる事情が出てくる。

  事実をありのままに近くすることが困難になる。結論の先取りや自分に都合の良い部分だけの近くに安心してしまうことになる。不利な部分を見なかったことにする。

  自分の責任について過剰に神経をとがらせるが、自分の責任以外の部分については十分な検討をしない傾向になる。

  事実を把握したとしても、自己保身的な発想から、自分に都合よく解釈したり、不利な部分、判断を複雑にする部分を過小評価したりする危険が生まれる。

  いくつかある作業に、無意識に優先順位を付けてしまう。具体的なもの、結果が現れるもの、自己評価につながるものが優先されてしまう。抽象的なもの、結果に直ちに結びつかないものは見過ごされてしまったり、後回しにされてしまったりすることによってずさんな対応をされてしまう。

  記憶力、記銘力が低下するということがある。

  目的を忘れて手段の遂行を機械的に行う。

5 交感神経が亢進する理由を検討する。

  セリエやキャノンが発見したように、身体生命の危険がある場合、交感神経が亢進する。しかし、通常、機械のシステム作動や対人関係に身体生命の危険は必ずしも伴わない。

  しかし、身体生命の危険が伴わないにもかかわらず、身体生命の危険が存在するかのように誤作動を起こすことがある。

  1は、時間がないという意識である。時間に終われるということは、無意識に、逃げ出すなどの対応をしなければ死の危険があるという反応を起こしている。即ち、脈拍の増加や体温、血圧の上昇である。当然、前頭前野腹内側部の機能低下ないし停止が起きる。これらは、通常の人間であれば実感したことがあるであろう。

  2は、睡眠障害である。睡眠障害によって、血圧、体温、脈拍が直ちに変化するかは疑問だが、前頭前野腹内側部の機能低下ないし停止がおきることも、実感できると思う。
  
  3は、複数の作業を同時並行で行うことである。これは人間の脳の弱点のように思われる。それぞれを行うことは容易であるのに、物理的には可能な同時並行作業でも、それぞれが気になってしまい、前頭前野腹内側部の機能低下ないし停止がおきることは実感されていることだろう。
  
  4は、裁量性の欠如である。自己の判断で行動することを禁じられると、慣れていくにしたがって、ストレスが加わる。拘束される内容としては、空間の異動、身体の動作、思考、長時間拘束等である。有意にコルチゾールが上昇するという研究結果がある。対人関係上の対応もこれに含まれると思われる。これは、動物一般に、自分の身を自分で守りたいという本能、根源的要求があり、拘束されることによって自分の身を守れなくなるのではないかという無意識の焦燥感、不安が生じるものと考えている。
  
  5がまさに、対人関係的危険である。アントニオダマシオが「デカルトの誤り」の中で主張している「二次の情動」である。対人関係学的には、排除の危険と考えている。人間は排除の危険を感じると、交感神経の亢進がおきる。ドキドキしたり、カーッとなったり、不安になったりして、複雑なことや自分の行為の結果を推論することが苦手になっていく。
  
 対人関係的なヒューマンエラーは、この対人関係的危険を感じての交感神経の亢進が中心になり、人間工学的なヒューマンエラーは1から4が中心になるのかもしれない。しかし、対人関係学的な危険の意識はヒューマンエラーに持とう善関係してくる。
 
 失敗が許されないという意識が、成功を待ち望む意識を凌駕してしまうと、交感神経の亢進が優位になってしまう。パワーハラスメントや、ストレッチなどの非人間的な労務管理、個人責任主義なども同様である。過度のノルマや、失敗に対する解雇などの重大な責任が用意されている場合、あるいは一般的に解雇の可能性がある中での作業は、交感神経の亢進が起きていると思われる。
 
  ヒューマンエラーという視点から対人関係学を俯瞰してみたが、対人関係学は、汎用性のある学問であることが感じられた。


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