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【勝手に書評】「トランスジェンダーになりたい少女たち」 以前のアメリカ「抑圧された記憶論争」と日本の「DV保護政策」の奇妙な類似点 [進化心理学、生理学、対人関係学]



<本書の内容>
トランスジェンダーは、生まれついての性と自認している性が同一ではない人のことを言うようです。
本著は、弁護士でジャーナリストのアメリカの女性が執筆したルポルタージュと分析が記載された著書です。日本でも訳本が令和6年1月に刊行予定だったのが、猛抗議をする人たちがいて一度刊行を断念しました。3月に産経新聞出版から刊行されたことで有名になり、私も買って読んでみた次第です。

想像以上の内容でした。「ああ、すべてがつながった。」とため息が出ました。

アメリカで、ここ10年で自分がトランスジェンダーだという10代女性たちが急増しているとのことで、この原因を探るために当事者や学校、両親、医師等々にインタビューを重ねました。

その結論を私なりに要約すると
1 トランスジェンダー急増の背景
  10代女性の生きづらさ、不安を解消する方法として、自分がトランスジェンダーであり、呼称やテストステロン、外科手術を受けることを切望するようになった。
2 生きづらさ、不安の原因は、SNSである。SNSを見て、自己評価が低下し、「本当の自分は別にある」という考えに取りつかれるようになった。
3 自分をトランスジェンダーではないかと思い込む理由
  ユーチューブなどのトランスジェンダーが発信する動画をみて、「これは自分のことだ」と共感する。自分も発信すると、勇気ある告白等と賞賛がなされるようになり、閲覧数も増加する。友人グループ内にトランスジェンダーの意識は拡大(伝染)していく。
4 学校のトランスジェンダーの思い込みのサポート。学校は、両親に情報を提供しないまま、本人の要請で、男性名を名乗ることや男性の人称代名詞を用いることを認めて実施する。
5 カウンセラー、精神科医のサポート
  トランスジェンダーかもしれないというクライアントに対して、違うのではないかと意見を言うことが禁じられていて、法律で禁じている州もある。肯定ケア(アファーメーションケア)だけが許される。テストステロン(男性ホルモン、連続して使用すると声や体つき、体毛などが戻らなくなる)や外科手術に向かってのパターンに乗ってしまう。
6 元に戻らない処置を受けて後悔したり、処置をしても生きづらさや不安が解消されない人、さらに増加した人の情報を発信しようとすると執拗な妨害が起きる。

<抑圧された記憶論争 アメリカ>

本書でも指摘されているのですが、1990年代に起きた「抑圧された記憶論争」というものがありました。20歳前後あるいはもっと上の女性の精神的不安定な人がカウンセリングに訪れると、「それは小児期に性的虐待を受けたからだ」
とカウンセラーは意見を述べ、カウンセリングによって10年以上前の記憶をよみがえさせるのだそうです。そうして、クライアントは幼いころに家族から性的虐待を受けたという「記憶」を述べるようになり、父親や兄弟、母親に対して、損害賠償を求めたり、刑事訴追を求めたりしたことがあったのです。多くの人が記憶というあやふやな証拠で、莫大な損害賠償の支払い義務を課されたり、長期服役を命じられました。

これに対してエリザベス・ロフタスらの脳科学者、認知心理学者が、記憶のメカニズムから、「そのような抑圧された記憶がよみがえることはあり得ない」という知見を主張して、やがて記憶想起療法自体が危険視されるようになり、1995年を境に失われた記憶を根拠に訴訟が行われることはピタと止んだそうです。そのような療法は、結局、患者を良くしないで悪くする、入院を余儀なくするということで、廃れてしまったそうです。
詳しくは【読書案内】「抑圧された記憶の神話」E・F・ロフタス外 ラディカルフェミニスト J・Lハーマンを裏から学ぶ。治療者と弁護士のアプローチの違いと弊害についてhttps://doihouritu.blog.ss-blog.jp/2020-12-02

幼児期虐待も、トランスジェンダーの同意ケアも、生きづらさを抱えている女性に対して、回答があらかじめ用意されていて、その後の流れもいつものパターンを踏襲していくものでした。原因分析において患者の個別性がほとんど考慮されていないところにも特徴があります。生きづらさの原因は今は忘れている幼児期の性的虐待だというハンコを押すだけです。

トランスジェンダー問題との一番の共通点は、このような機械的な原因の決めつけです。
興味深いことは、本書の著者はこの時のカウンセラーは善意で行っていたと考えているところです。そして、トランスジェンダーの問題で肯定ケアをしているカウンセラーらも善意だというようです。カウンセラー資格のある人が、クライアントの個別性を十分検討せず結論を出すということがおよそクライアントのためにつながらないことは、むしろ専門家ではない私たちは感じますよね。それを専門家が考えなかったということはとても恐ろしいことです。

抑圧された記憶論争は、「性的弱者である女性の保護」という大義名分があったようです。即ち正義です。正義を実現するという意識が、弱者の訴えは認められないという社会的不合理の是正を求めて、感情が高まっていったようです。そのため、虐待冤罪を受けた善良な人たち、特に冤罪だけど娘を嘘つきにしたくないということで争わないで長期刑に服した人たちの絶望まで考えが至らなかったということです。そして、肝心のクライアント本人の改善にもつながらず、その後の性的虐待の訴えは偽の記憶ではないかという先入観を作り上げてしまったということなのでしょう。

トランスジェンダーの問題も正義感が介在しているようです。性的マイノリティに対する差別に対する全否定というのでしょうか。アメリカ人は、自分が差別者だと評価されることを極端に嫌うようです。おそらく政治に携わる、議員や論客たちは一層敏感になっているのかもしれません。

そのため、トランスジェンダーだと誰かが口にしたら、それを肯定しなければ、差別だとする意識になっていて、肯定ケアを法制化したりするようです。

誰かの「自分はトランスジェンダー」発言を否定することは、トランスジェンダーを差別することであり、トランスジェンダーの生きづらさに寄り添っていないと評価するべきことだと多くの人が考えて、法律までできたのだと思います。
だから、本来的には性別違和は幼少期から感じていることのはずなのに、思春期になってから突如トランスジェンダーだということを「疑うべきではない。」と思い込んでいるようです。疑うことは寄り添っていないことだという感覚なのでしょう。著者は、実際はトランスジェンダーではなかったことをカウンセラーはそこまで考えていないのだろうと述べますし、パターンに乗せて治療しても生きづらさや不安が消えないということも考えていないのだろうと述べています。

<日本でのDV保護政策>

現代のトランスジェンダー問題と、幼児期虐待訴訟問題と同じようなことは、現代の日本でも起きています。それはDV保護政策です。

産後うつや内分泌異常その他の精神的不安定に、女性がかかりやすい年齢の時期があります。その他経済的事情や生い立ちなど様々な要因で、生きづらさや不安を抱えている女性がいます。社会的風潮から、専業主婦ということがなんとなく生きづらいということもあるようです。しかし、本人は生きづらさや不安の理由を自覚できません。自覚はできないけれど、このモヤモヤを何とか解消したいという気持ちは高まっていきます。

そんな時に女性の相談会に出向くと
多くは、医師の資格も心理士の資格もない人たちから、
「それは夫のDVが原因です。」と言われ、子どもを連れて夫から逃れ、離婚調停や保護命令の裁判手続きの流れに乗ってしまうというパターンがあります。

現在の生きづらさの解消を見つけた思いになった女性たちは、「DVでご苦労されましたね。本当のあなたはもっと素晴らしい人です。」等と言われると、「自分を理解してくれる」と思ってしまい、その通りにしてしまうようです。
あらかじめ用意された結論とその後のパターンに乗せることは、トランスジェンダー問題や幼児期性虐待問題のパターンと共通です。

アメリカでは、その宣告を資格のあるカウンセラーや医師が行っていますが、日本では、資格もない人たちやNPO法人が行っているところに違いがあります。

しかし、日本でも、子どものチック症状が別居してしばらくして出てきても、それは同居時の父親の虐待によるPTSD症状だと診断書を書く医師も少なくないのです。同居中は子どもが自分の意思で精神症状の身体症状をコントロールしていたと言わんばかりです。

警察でもNPOでも行政でも、DVを疑うことはDV被害者に寄り添っていないということで、肯定ケアがなされています。夫から事情を聞くなどということは行っていません。この人たちも被害女性保護という正義を実践しようという高揚感から、冤罪DV加害者の心情については、そこまで考えていないのでしょう。

そして、「行政の言う通り離婚したけれど、生活は楽にならなく帰って今の方が苦しくなっている。生きづらさが増えている。」という訴えに対して、「離婚はあなたが決めたことです。」という判で押したマニュアル通りの回答がなされることも、あまり知られていることではないことも共通しているのではないでしょうか。



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