SSブログ

積極的平和主義という国際貢献を目的とした安全保障法制、集団的自衛権に、抑止力の高まりまで期待することは無理があるのではないか。 [弁護士会 民主主義 人権]

<議論の前提>
議論を単純に」するために以下の前提を置きます。
「自衛隊の防衛力、日米安保条約は、国土防衛の観点から
一定の抑止力を有している。」

1 立法の主たる目的は積極的平和主義だったはず

もともと、今回の
集団的自衛権の行使を目的とした安全保障法制は
積極的平和主義を推し進め、日本が国際貢献を果たす
というところにあったわけです。

平成26年7月1日の閣議決定でもそうですし、
http://www.cas.go.jp/jp/gaiyou/jimu/pdf/anpohosei.pdf

安倍首相が、アメリカ上下院での演説でもそう語っています。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/na/na1/us/page4_001149.html


これは、湾岸戦争などで、
日本が金銭的支援をした時に

「金だけ出しても国際貢献にならない。」
日本も血を流さなければならない。」
というところから始まっています。

そういうことですから、
日本本土の平和を高めることが出発点ではない
それで良いはずだったと思うのです。

ただ、日本も血を流すことによって、
アメリカからの信頼が高まり、
日米安保同盟が強化されることによって、
抑止力が高まる
という説明はなされています。

国会での安全保障法制を見ていると、
安全保障法制によって、
抑止力が高めることが法律の目的みたいなことになっていて
そもそもの出発が逆転しているような印象があります。

2 もともと積極的平和主義には危険が付きもの

集団的自衛権はというと、
直接間接の侵略がなくても
防衛力を発動するわけです。
(自衛隊法改正法案3条)

要するに、本土ではない別のところでの
戦闘行為に加担するのです。

この戦闘が日本の存立危機事態となるのであれば
集団的自衛権行使は
存立危機自体を回避することにはなるでしょう。

ただ、うまくゆけばの話です。
この戦闘行為で、日本が加担する方が負ければ、
戦闘行為が日本にまで及ぶでしょう。

また運よく存立危機自体を回避しても、
「なんで日本がこちらに攻撃するのか?」
と攻撃された相手国は驚き、恨み、
今までノーマークだった我が国に怒りの矛先が向き、
危険が持続していくかもしれません。
新たな敵を増やすということですね。

このあたりは、存立危機事態という概念が
具体的に想定されていないということが
リアルな安全保障法制の整備の理解の
桎梏となっていることを
わかりやすく示す事情になると思います。


また、存立危機事態でなくとも、
武器警護ということで
武器使用が許されるということになります。
これは、アメリカ軍に限らないのです。
(自衛隊法改正案95条の2)

(アメリカの信頼を高めることだけが
 この法整備の目的ではないのでしょう
 じゃあ何でしょう?)

ミサイルの警護のための武器使用の場合は、
正当防衛の範囲という制限があるとはいえ
相当の武力を使っての防衛力の行使となりますから
普通に戦争が始まる可能性があります。
これまで、無関係だった国やそれに準ずる団体が
敵国になってしまうのですから、
戦争の危険、国土が攻撃されるという危険が
新たに生まれる可能性は否定できません。

そもそも積極的平和主義とはこういうものですから
それは織り込み済みのはずです。

自国の防衛力である護衛艦を
地球の裏側であるホルムズ海峡まで派遣するのだから、
本土防衛の防衛力は低下します。
国際貢献、積極的平和主義とは
このような覚悟が必要です。

要するに直接の本土防衛の観点からは
集団的自衛権行使は
抑止力はむしろ低下するわけです。

3 現行周辺事態法があることが無視されている

次に、政府の説明が不十分な点と感じるのは、
「北朝鮮や中国が責めてくるから
集団的自衛権を行使できるようにする。」
というものです。

北朝鮮や中国に関しては、
まさに自衛権行使であり、
「集団的」自衛権ではありません。

わが自衛隊が抑止力ですし、
日米安保条約が抑止力です。
加えて、周辺事態法があるわけです。

北朝鮮や中国からの本土防衛と
集団的自衛権は果たして関係があるのか、
周辺事態法のどこが足りなかったのかということは
ぜひ参議院で議論、説明してほしいと思います。

国民の理解を得るためには、
この点の丁寧な説明が必要なのかもしれません。
これが説明できなかったら、
本土防衛と集団的自衛権は関係のないこととなり、
むしろ本土防衛には有害だということになるから、
(地球の裏側に国土防衛の防衛力を割くから)

これまで安全保障法制と安倍内閣を支持してきた
(不支持をしていなかった)
善意の国民が、不支持に回ることになってしまいます。

一国平和主義ではなく
積極平和主義の下での集団的自衛権行使のための法案ですから
志の低い議論を、法案提出側が行うことは
矛盾にしかなりません。

4 間接的抑止力論は国際情勢の変化に対応できるか
次に、
「アメリカの信頼を得ることで
日米同盟が強化され、抑止力が高まる」
ということです。
これは二つの角度からの説明が必要でしょう。

4-1 日米安保を幻想的にではなく現実的に見た場合

第1に、
「抑止力を肯定する」という、
リアリティをもって世界の動きを見る方々にとっては
あまり説明の必要もないのですが・・・

アメリカが安保条約を締結したのは、
自国の利益を守るためです。

アメリカが善意で、つまり日本が友好国だから
守ってあげたいという
ロマンティックな話ではありません。

アメリカの世界戦略のために、
日本という「不沈空母」が必要だ
という利害一致があるからです。

言われなくても自国の基地を守る。
ということです。

日本が積極的平和主義で
国際的な活動を活発にしたら
アメリカがどのようにプラス変化することを
想定しているのでしょう。

心構えくらいは変わってくるかもしれませんが、
抑止力の観点から
本当に何かが変わるのでしょうか。

具体的な防衛力の観点からは
アメリカはこれまで通り自国の基地を
淡々と守るでしょう。

この点、アメリカの日本防衛に対する
具体的なプラスの変化があるならば
この点をできるだけ具体的に説明すると
国民の理解が深まるかもしれません。

竹島や尖閣諸島に米軍が出動するとか。
国後に出動するとか。
テポドンが撃ち落されるとか。

4-2 テロには抑止力がきかないこと

第2に、
抑止力は万能ではないということです。

閣議決定でもアメリカ演説でも
国際情勢の変化として
テロリズムとサイバー攻撃が意識されています。

このテロリズムとは、
まともな軍事的衝突をしてもかなわないから、
(即ち、抑止力があるから)
国権の発動としての戦争はできないので、
(国というほどのまとまりはないとか)
個別撃破戦略をとるというものでしょう。

いわば抑止力が生み出した
殺人形態ということになります。

現代の国際情勢下での、「力による制圧」は
まとまった形のあるものを握りつぶすのではなく
いわば泥のようなものを握るわけですから
指と指の間からはみ出してくることが必定です。

テロ対策は、集団的自衛権の行使ではなく、
自国の警護に予算を割かなければいけない類型です。

サイバー攻撃もしかりです。
サイバー攻撃に対してどうやって武力で警護するのでしょうか。

安倍首相の演説や閣議決定が指摘する
国際情勢の変化は、
これまでの力の制圧では
平和が保たれないということを
正しくまた皮肉にも示しているわけです。

それにもかかわらず
テロやサイバー攻撃を
集団的自衛権の理由の中で述べられているので、

うっかり聞いていると
単純に危機感をあおられてしまい
何とか危機感を解消して安心感を獲得するために
やみくもに武力行使を可能としておきたいという
不安心理を利用するかのような
国民を馬鹿にしているような
そんな誤解をしてしまいそうです。

そもそも法律案では
日本と関係のないテロは
存立危機事態とはならない
そうだとすると、集団的自衛権の行使とは
ゆかないはずです。
積極的平和主義に貢献できなくなります。

武器警護(95条の2)で防衛力を発揮するだけです。

5 見逃せない武器警護の拡大

このような場合に自衛隊の武器警護が可能なのか、
この解釈で良いのか、参議院で議論してほしいと思います。

また、アメリカ以外の国の武器警護をするという規定が
わざわざ新設されている(95条の2)のですが、
それはどこの国なのか説明が必要です。
オーストラリアならば、これまでの自衛隊法のように
オーストラリア軍についての規定をするべきですが
どうしてそうしなかったのか説明が必要です。

一触即発のX国とY国があり
自衛隊がX国から要請されて、
Y国との国境付近にミサイルを移動する際の
警護に出動するとします。
Y国がこれはX国のY国への侵略開始だとして
一方的に、自衛権を発動して空爆に及んだ場合
自衛隊は正当防衛としてY国に対して
武器使用することになります。

相手は戦闘機なので、自動小銃で応戦するわけにはゆきません。
地対空ミサイルなどで応戦するわけですが、
当然、何の利害関係のないY国は、我が国に宣戦布告をする
そう言う危険性を持つのでしょうか。

私の解釈が間違っているのか
ぜひ説明して、安心させていただきたいと思います。

6 細かい条文の疑問

ちなみによくわからないのが、
自衛官に対する国外犯の創設です。
自衛隊法改正案の122条の2なのです。
国内行為の119条の7,8号を準用しているのですが
4.5.6号を引用しないのはわかる気がするのですが、
1号 政治活動の禁止とそれに対する刑罰
2号 労働組合の結成の禁止とそれに対する刑罰
3号 ストライキの禁止とそれに対する刑罰
が準用されていない理由がわかりません。

海外で労働組合活動をしたり
ストライキをすることは許されるのでしょうか
なにか、政治活動でもさせる予定があるのでしょうか。

細部にわたるとよくわからない規定もあるようです。
なんたって、10の法律の改正案があるので、
ほんらいそれぞれ80時間ずつ必要なはずです。
今回は、自衛隊法改正だけを述べていますが、
これだけ疑問なことが出てきています。






nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0