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どうしてあの人が犯罪行為をしたのか。失敗をしないで理性的な活動をするためには、適切な睡眠時間と睡眠時刻が必要 [進化心理学、生理学、対人関係学]



そんな世間を騒がすほどの大きな事件でなくても、私たち弁護士が業務上関わる犯罪であっても、「え?どうしてあの人がそんなことを」と周囲が驚くことが少なくありません。本人は、いたって真面目な人間で、まっとうに生きているので、「魔が差した」としか言いようがないのです。しかし、犯罪には必ず理由があり、その理由を改善しないと再び犯行を行う危険が残るわけです。

実は、慢性的な睡眠不足が犯罪の背景にある場合が多いように感じています。

慢性的睡眠不足が、外国での原発事故の一つの要因とされています。失敗するはずのない失敗が起きた事故でしたが、その失敗が起きた原因が睡眠不足だったというのです。

私の業務上でも、自動車事故のケースに睡眠不足があったと思われるケースが多いです。夜勤明けに自動車を運転して帰る時に人をはねて死亡させてしまう事故がありました。人をはねる瞬間、眠っていた、つまり意識を失っていたので、見通しの良い道路で追突をしたのです。結果は大変深刻です。朝元気よく「行ってきます」と出て行った病気一つない主婦が、何の落ち度もなく歩いていて命を落としたのですから、ご遺族の無念さと悲しみは大きいものでした。

睡眠不足の場合、特に慢性的な睡眠不足の場合は、このように意識を失わなくてもミスをします。むしろ意識を失わないために、睡眠不足のために思考力が減退していても気が付かないまま、取り返しのつかない判断ミスをしてしまう危険があります。

過労死や過労自殺も睡眠不足が背景にあるため、睡眠不足の負の影響については意識的に観察をしています。その結果、睡眠不足は、思考力を奪うということが言えると思いました。

どのように思考力を奪うかというと、総論的に言えば、努力して考えるという行為ができにくくなるということかもしれません。具体的には

1 複雑な思考ができなくなる、複雑な思考とは細かい計算だけでなく、他人の気持ちや他人の立場を考えるということができにくくなります。
2 現在は目に見えない将来的な成り行きなども考えることができなくなるようです。
3 時間をかけてじっくり考えるということができなくなり、早く答えを出そうとします。
4 折衷的な考えなどの複雑な考えというか、自分の頭で考えなおすということができなくなり、あらかじめ用意された答えのどれかを選ぶという思考になりますし、イエスかノーかとか、表か裏かなど、はっきりした答えを好むようになります。あとは数字で成果がわかる方を優先してしまうようです。

この結果、奇妙に悲観的になりすべてがノーという決断になったり、奇妙に楽観的になってすべてがイケイケになったりということも起こりやすいです。まっとうにお金を稼いで目的果たすことができないと悲観的になる一方、あそこから持ってくればすぐに手に入るじゃないかという心理で、窃盗が起こされるということはよく見ています。

洗脳される場合は、意図的に睡眠不足にさせることが多いようですが、それは理にかなっていることになります。こちらの用意した「正解」に従ってしまう思考にさせるわけです。「なんだかわからないから、あなたの言う通りにしよう。それなら少し安心だ。」ということなのでしょう。

他人が意図的に洗脳する場合でなくても、「偶々その時に自分が考えていたこと」を実行してしまうことも睡眠不足の際にみられます。極端な事例を挙げると、ある商品のコレクターが事件を起こしました。ある睡眠薬とアルコールを同時に摂取し、その商品を盗もうとして逮捕された事件でした。自動車の運転をして目的地の店に到着することができ、欲しかった商品のコーナーにたどり着きました。しかし、店のものをお金を払わないで持ち出したら窃盗になるからやめようと思うことができなかったため、堂々と商品を持ち出そうとして逮捕されたのです。これは薬物の影響なのですが、結果的に薬物の影響で睡眠不足の極端な場合の思考能力が生まれてしまったのだと思います。

ここまで極端ではないものの、多くの事件で、睡眠不足が原因で、被害者の被害、被害に遭ったことでの精神的ダメージを考えることが無く、また自分も世間的に致命的に不利になるということを考えることができず、純粋に自分の欲望に従って行動し、結果的に物を盗む等の犯罪を実行するというパターンがあります。

人間が何か行動を起こそうとする時、色々な物差しでそれをしても良いのか、するべきではないのかを点検しているようです。

・ 欲望によって、何をしたいか決めるという物差し(お金が欲しいとか、何もしたくないとか)、
・ 他人の評価という物差し(これをすれば褒められるとか、これをしたら致命的に否定評価をされるとか)、
・ 道徳や法律に従うという物差し、
・ 仲間内のルールや宗教の教義などの比較的具体的な物差し、
・ 親、学校の先生、上司などの指図という物差しですね。

いつもほとんど無意識に、あるいは直感的に、それらの物差しをあて、メリット、デメリットを比較して行動を決定しているようです。

睡眠不足は、この物差しをマルチに当てはめることができなくなり、例えば欲望だけを極端に優先するようになって、他の物差しがイメージとしても出てこないという状態が生まれてしまうようです。軽い気持ちで人のものを取ったり、会社の財産を横領してしまうということが起きてしまいます。だから逮捕されても、どうして自分があんな馬鹿なことをしたのかと、悔やんでしまうのですが、理由がわからないということが起こりうるわけです。

どんなに犯罪から遠そうな温和な人でも、いくつかのアクシデントがあって、今までの生き方の修正を迫られたり、孤立が継続しているときに、眠れない日々が続いていると、つい、犯罪を実行してしまうということがどうやらあるようです。

睡眠不足は文字通り眠らないことによって起きるので誰でも起きる可能性があるのですが、睡眠不足以外にも、薬物(覚せい剤など)やアルコール等によっても起きることは仕事柄よく見ています。禁止薬物に手を出す時も睡眠不足が背景にあることも多いように感じます。

また、一定時間睡眠を確保していて睡眠不足ではないよという場合でも、よくよく聞くと昼夜逆転をしていたということもよく見られます。人間の体は細胞のレベルから体内時計があって、睡眠を効率よくとるためには夜に寝ることが必要なようです。具体的に何時から何時だということは難しいのですが、私がうかがった精神科医の話では夜の10時から2時の4時間を含む7時間だと言っていました。現代人はなかなか10時に就寝することは難しいと思いますが、11時には布団に入ることがベターのようです。そして、不足のない睡眠時間というのは個人差がありますが、成人の場合は睡眠リズムから考えて6時間半から7時間と言って間違いはないと思います。

また、最近の事例研究では、睡眠時間は必ずしも毎晩意識を失っている時間でなくても良いようです。体を横たえて、好ましいイメージを頭の中で作ってリラックスしていればよいようです。不安の種というものは誰しもあるわけで、そういうものはほっとけば頭を支配して、眠ることができなくなってしまいます。しかし人間はうまくできていて、同時に二つのことを考えられないという特質があります。意識的にリラックスできるイメージを作ることによって、心配事を考えなくするという方法論のようです。

睡眠不足によって、思考力が減退していることはなかなか自覚できません。逮捕されて生活リズムが整った後で、犯行時は今に比べるともうろうともやがかかったような思考状態だった、今は思考がクリアーになっていると気が付くといいます。睡眠不足の影響を自覚できないために、自分の行動をコントロールできないということになり、犯罪や致命的な仲たがい等取り返しのつかない行動をしてしまいます。

早寝早起きという生活リズムをいつも整えておくことは、犯罪予防の観点からも正しいということです。試験勉強や仕事という、やらなければならないこと以外の理由で、夜の10時を過ぎて活動することは意識的に避けるべきです。

なお勉強も、思考系の勉強はもちろんですが、暗記系の勉強も睡眠時間が大切です。実は記憶というのは眠っている間に整理され、整理されることによって定着されるということがわかってきています。また、暗記系は覚えこむことよりも、思い出す訓練をすることで記憶が定着していくというのが記憶学の近年の到達です。睡眠不足では、努力して考えるということができなくなりますので、思い出すということがなかなかできにくいようです。

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