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国の自殺対策予算が政治利用されるのではないかという懸念 自治体の弁護士委員の果たすべき役割について [自死(自殺)・不明死、葛藤]


1 現在の自殺対策

現在の日本の自殺対策として、
①各都道府県、市町村ごとに地域の特性に根差した自殺対策計画を策定し、
②成果の有無を評価して
③さらに効果的な自殺対策の計画を立てる
という政策がすすめられています。つまり、地域ごとにPDCAサイクルで自殺対策を進めていくということです。

ただ、それだと地域によって対策の質・量にばらつきが出るのではないかという懸念があって、自殺総合予防推進センターという民間団体に委託して、各地域のプロファイルを行い、計画や評価をチェックして対策の底上げを図るという構造になっています。

2 方法論自体に懸念されていたこと

この政策転換については、メリットを評価しつつも、懸念材料が指摘されていました。自殺は地域的特性によって起きるというより、日本共通の問題があるので国が中心に政策を進めなければ効果が期待できないのではないか、権限の狭く脆弱な自治体がメインになることは自殺対策が後退するのではないか。というものの外に特に以下のものがあげられました。
1)センターで管理をすることは底上げにはつながるかもしれないが、各地域特性を地域外の人たちで評価することは困難であり、結局地域の特性を生かす方向とは逆行するのではないか。自殺予防を目的とした統計ではないという意味で自殺予防政策の観点からの実態把握には極めて不十分な統計資料しかないのではないか。
2)地域計画の実行に対する評価を数字的に上げることは困難であり、各地域の現場の肌感などが現れないために、センターで評価することは質的にも難しく、かつ、量が多すぎてすべての自治体の丁寧な評価が可能とは思われない。
3)その結果見直しと言っても当初の理念から離れた者になるのではないか。つまりPDCAサイクルが機能しないのではないか。

4)センターが全てを指導するという立て付けは、結局各地方が独自に自分の頭で考えて、必要な政策を実施して、自ら評価するという思考や力量を奪ってしまわないかという懸念もありました。

3 実際の地域計画見直しから見えてくる懸念

現在、各地方自治体は、一斉に地域の自殺対策計画の見直しを行っています。地方色を出している自治体もあるにはあるのですが、「きちんとした自治体」ほど、抽象的な計画に終始しているような「印象」を受けます。

先ず、地域の実情からの根拠のない施策が入ってきています。即ち、自殺対策の重点施策として女性の自殺対策を追加しているのです。当然、女性特有の自殺対策は必要なのですが、令和4年以降は女性については減少に転じているので、時期を逃した政策になってしまっているという印象が否めません。まず全国で、なぜか女性の自殺対策に重点を置きましょうということが決められ、少し時間がたって地方に降りてきて、これに追随せざるを得ない状況が作られたという印象です。

次に、それでも特徴的なことは20歳代等の若年女性の自殺者数、自殺率が増大していることは確かです。だから、女性一般の自殺対策が重点ではなく、若年女性の自殺対策を重点化するならばわかるのです。

これは背景的に政治的な思惑がある、若年被害女性対策の東京都などの施策と共通性があるのですが、それは後述します。

その他には、東日本大震災の被災者対策ということが挙げられています。そしてその対策の内容が「復興を推進する」というものです。この表現は地元感がまるでありません。いかにも、東北は大震災があって対策が必要でしょう、対策には復興でしょうという、東京でテレビを観ながら震災を「知った」人たちの発想のように感じてなりません。大体、東日本大震災前がそんなに豊かで幸せな状態だったとも思われません。「復興」という一義的でもなければ具体性もないことで自殺対策と言われても何をしていいかわかりませんし、復興事業がすなわち自殺対策ではないので、「そうだそうだ」という気持ちにはなりません。

問題はミスリードです。しないよりましな政策なら予算がかかったってするべきなのだと思うのですが、しない方がましな政策はしてはならないからです。

私は真正面から自殺対策が行われているのではなく、何かの思惑が自殺対策の中に混入してきているような強い懸念を持ちました。その典型的な話が女性の自殺対策です。

4 ここでも女性支援対策

女性対策を重点化するとしたのは、全国レベルの話です。言葉の意味も具体化せず、そのデメリットも考慮しない勢力は、ジェンダーという言葉が出れば思考停止しをして賛成する人が多くなってしまっているからだと思います。

女性対策を重点化する統計上の根拠は極めて薄弱です。どうして自殺者や自殺率の高い男性対策をしてこなかったのに、女性対策が突如現れたのか、強烈な違和感があります。

根拠は以下のように示されることが多いようです。
1)産後うつの調査統計
出産後うつ病になりやすいことは21世紀になって科学的に証明されるようになりました。痛ましい自殺の報道や申請時に対する虐待の事件報道もなされています。保健所の訪問活動で、うつ病を示すエジンバラスケールが高値を示しているということが理由として挙げられていました。産後うつ対策はとても重要です。産後うつの核心はバルセロナ大学と富山大学がそれぞれ発表した結果から、夫に対して共感、共鳴ができなくなるというところにあります。私も離婚調停を担当していて、いわゆる子どもの連れ去り事案の多くが産後うつにり患していた事情が示されています。

あくまでもそれは産後うつ対策です。女性一般の対策を重点化することとは別です。

2)婦人相談所の相談内容
次に女性一般の対策の重点化の根拠として挙げられるのは、婦人相談の相談内容が、夫の暴力についてが一番多く、次に離婚の相談が多いということから、女性一般の対策の重点化の根拠としたいようです。但し、つじつまが合わないと気が付いている自治体は根拠として明示はしていません。

これも噴飯ものです。婦人相談所というのは、結局DV相談所です。女性の人権相談という抽象的な表題であっても、「こういう場合に相談に来てください」という例示はほとんどがDVについてです。あとは職場のセクハラですか。

つまり、夫のDVや離婚について相談しろと銘打って相談会を開けば、夫のDVや離婚についての相談が多いのは当たり前です。

また、思い込みDVの中で説明していますが、女性が不安や焦燥感を抱くのは、夫に限らず、産後うつ、婦人科疾患、内科疾患、パニック障害、子どもに障害があること(現在多いのは発達障害)、住宅ローン等様々です。しかし、その原因が自分では自覚できませんので、夫に対する不満という形で不安や焦燥感を表現することが多いのです。また、DV相談所と銘打って相談を受け付けているのですから、些細なことを取り出して夫のDVだという場合も本当に多いです。
月に3万円しかお金を渡されないのは経済的DVだと言われたというのですが、夫の賃金が手取りで20万円を切っていて、夫の口座から公共料金が全て引き落とされて、食費や生活費も夫が負担しているという場合に、子どもが小学校にあがったというのに、妻が専業主婦なのです。3万円は妻の小遣いで、夫の収入を考えると、頑張って渡していると評価するほかないのですが、DV相談所に言わせると経済的DVなのだそうです。一例ですが。

私はこのブログでもたびたび考察しているように、夫が全く悪くないということをいうつもりはありません。しかし、どうやって家庭を幸せな時間にあふれるように作り上げるかという情報が欠如していることも事実です。また、夫婦問題を相談すると行政でも弁護士でもカウンセリングでも離婚しか勧められず、円満な夫婦の作り方を情報提供する機関が全くないということも極めて奇妙なことだと思います。

結局行政もNPOも解決策として離婚です。しかし、離婚をしても夫の収入が上がるわけでもありませんから養育費を受取っていても、生活が婚姻時より楽になることは無く、苦しくなるばかりです。人権相談で、「婦人相談所の言う通り離婚したけれど幸せにはならない。と言ったら、相談所の人は、離婚はあなたが決めたことですよ。」というばかりだったという相談を多くの人権擁護員は電話で聞いています。

妻はその程度でよいでしょうが、罪のない子どもが突然今いる環境からも父親からも、学校からも引き離されて、自分の父親を悪人だと吹き込まれて、自己肯定感が低くなったら人生取り返しのつかないことになると私は思います。

こんなことで女性の自殺予防として、離婚を助長するような政策が行われてしまったら、みんな不幸になってしまいます。特に子どもを連れ去られた男性の自殺率が高いことは、本件にかかわる弁護士の共通認識です。自殺対策として自殺を増やすということが一番避けなければならないことだと私は思います。

自殺を予防し、多くの人が不幸にならず幸せを感じる政策とは、家族が幸せになる方法の啓発であると思います。このような視点の政策は自殺対策の中に出てきません。

3)コロナパンデミックと女性の自殺の増加

確かに令和2年と3年は女性の自殺者数が増加しました。しかし、それがコロナと関係があるかどうか、研究者の間でも関連がよくわからないようです。関連があると主張するのが、離婚を推進しようとしている一部のジェンダー主張論者たちです。強引に在宅ワークで家に夫がいるせいで自殺者が増えたということを何の統計もなく主張していました。しかし、一方で在宅ワークで夫婦のきずなが深まった、会話が増えたという統計があるのですが、確証バイアスが働いてそのような資料は目に入らないのだと思います。なぜかこの論調で新聞も無責任に特集を組んだりしていました。

コロナ禍で女性の自殺者が増えたということは、令和2年3年においては、相関関係があります。しかし統計学の極めて初歩の概念として、「相関関係と因果関係は異なる。」というものがあります。入門書には必ず書かれていると思います。

パンデミックになれば、パンデミックの影響を受けた様々な事象によって女性の自殺が増えるとは必ずしも言えません。

実際に国の児童の自殺対策をする審議会でも、このような統計学というか科学的立場を無視して、コロナ禍で子どもの自殺が増えるだろう、それは父親が家庭に居座るからだというような報告書を作成しているのです。前にこのブログに書いた通りです。
【緊急】文部科学省の令和3年の自死対策 コロナも令和2年の統計結果も関係ないまとめではないのか。つまり実効性に疑問を払しょくできない。
https://doihouritu.blog.ss-blog.jp/2021-11-04


この例を考えると、統計的根拠もなく他に深刻な統計上の問題があるにもかかわらず、女性一般の自殺対策を重点化するという政策と抱き合わせてコロナパンデミックによる自殺対策を方針とするという流れは、自殺問題とはあまり関係なく、政治的に女性の支援をNPO法人に高額の費用で丸投げするという政策に誘導しようとしているのではないかという懸念が生まれるのです。子の連れ去りが格段に多くなったのも平成25年のDV相談にNPOが参入してからだと考えると、結局は特定のNPOに費用を流そうとしているのではないかということを警戒しなければならないのだと思います。

いずれにせよ、地域自殺対策計画は、予算を伴った政策です。なんとなく相関関係があるから対策を立てなければならないということではだめなことは誰でもわかることだと思います。因果関係がわからないと具体的な対策は立てられません。曖昧なまま政策を作らなければならないと言って科学的根拠も経験的根拠もなく立案してしまい、逆に、これが家族破壊政策に使われてしまったら、自殺予防とは逆行した政策になってしまいます。

日弁連は、平成21年から弁護士が自殺対策に積極的に関与しようという方針を打ち出し始めました。その要諦は、当時の莫大な自殺対策費用が、一部の利益のために使われてしまわないか監視をするということにありました。適正な予算を組むために、弁護士も政策に参画することが主たる目的でした。かなり政治的な話が始まりだったのです。

今まさに、その危険が現実化しているのかもしれません。
現在は、多くの弁護士が自治体の審議会委員に選任されています。役割を果たす時だと思います。

そして各自治体の担当者は、「きちんとした」自治体ほど国の政策に当然のように疑問を持っており、反論をしたいところなのです。でも自殺予防センターを怒らせてしまえば国の予算配分にも支障が生じます。だからこそ、民間の委員、弁護士委員が疑問や意見を積極的に述べるべきです。

それほど自殺プロパーの知識が無くても疑問を持ち、意見を言うことができます。つまり、変化をするポイントで、「その変化は統計的な裏付けがあるのか」、「主語がでかすぎないか」、「その変化の理由で、なぜその資料を挙げるのか」、「その理由は科学的な根拠があるのか」というところを質問し、自分の業務上の経験に基づいて、自分の経験上はむしろこうだという個人的な意見を述べることをすることで足りると思います。

肝心なことは、自治体の職員は敵ではないということ。多大な労力をかけて準備をしているが、国の制度の仕組みで、良心や能力を発揮できないことだ、あなたの代わりに私が話すという姿勢なのでしょうね。

付録
この懸念政策に貢献しているのは、無罪判決を勝ち取った元厚生労働省官僚のようです。あちこちで講演をして信者を増やしているようです。その要諦は何かというと、「困難女性はカウンセリングとか役所の相談とは敷居が高い。だから、格式張らない民間人が相談を担当することが最適である。」ということのようです。東京都の若年被害者支援事業で、莫大な予算が一般社団法人やNPO法人につけられて、有効な管理をせずに、税金の使途が極めて曖昧になっているといういわゆるWBPC問題で、法人の代表として活躍されている人だけあると思いました。このシステムを自殺対策として全国に広めたいのではないかという懸念が私の具体的懸念です。

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