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これまで担当してきた懲戒解雇無効事件からの教訓 労働者側と使用者側それぞれに向けて [労務管理・労働環境]



私は、労働事件において、特段の主義主張、思想信条がありませんで、労働者側代理人も使用者側代理人も担当しています。法に従って適切な解決に努めるだけです。

また、そうあるべきだと今は思います。両方の立場の代理人をするからこそ見えてくる事件の解決方法があるからです。私は調停委員として懲戒解雇事件にかかわることもあったので、ますます事件が立体的に見えてくるようになりました。

事件が立体的に見えると、どちらの立場で仕事をしていても、相手の背景事情が見えてきて対策が立てやすくなります。それぞれの側の法実務家として担当してきたことから気が付いた点がありますのでメモを残したいと思います。

<労働者側に向けて>
速やかな法的手続きが一番の武器です。

事件の背景を見抜いて、必要とあらば直ちに法的手続きに移行するべきです。懲戒解雇に理由がなく、職員も職場復帰を望んでいるならば、地位保全の仮処分を第一選択肢とするべきだと思います。そして申し立ては素早く行うこと。多少申立書の記載が稚拙でも、迅速さが命だと思います。労働者側の代理人として夢中になって申立書を書いて提出してから、労働契約法の条文を掲げていなかったことに気が付きましたけれど、特に問題が無く勝訴的な和解となりました。

とある保全事件で労働者側代理人として申し立てを行いました。懲戒解雇された翌日に打ち合わせをしてその翌日には申立をしていました。懲戒解雇された日に電話相談が来て、その電話で仮処分に必要な書類を告げて、翌日にもってきてもらいました。前の事件がパソコン上に残っていると書式を使いまわせるほか、必要な資料もわかりますから便利です。

労働者側代理人として大変なのは陳述書作成かもしれません。保全事件では陳述書が大切であると常々実感しています。陳述書を書くにあたっては、依頼者に経過表メモを作ってきてもらうことが大切です。健康保険証や給与明細書等にも必要な情報が明確に記載されていますので、手元にあるととても便利です。案外相手会社の資格証明を取るのが手間がかかることがありますが(1日を争う場合)、依頼者に法務局によって来てもらえるならとても便利です。私の場合は通勤路に法務局があるので朝一で登記簿謄本をとっても9時には事務所に到着できるので便利です。

労働者が使用者から理由を告げられて懲戒解雇を言い渡されたならば、躊躇せず懲戒解雇無効に基づく地位保全申立をするべきだと思います。勉強をしている人ほど、懲戒解雇から普通解雇に転換されたらどうしようと考えるのですが、理由を告げられて懲戒解雇だと言い渡されたらならば、実際は仮処分手続き中に普通解雇への転換はやりづらいということが実情です。「普通解雇に転換するなら転換してから普通解雇を主張しろ」という心構えでやっています。解雇予告手当も出さずに、懲戒解雇の理由をあげて解雇している以上言い訳ができない状態であることをついていくつもりでした。

この言い訳ができない状態にしていくためにも、間髪入れない申立てをすることが大切です。時間が過ぎていく中で、懲戒解雇をした会社も、離職票を作成する等様々な手続きがあります。その中で社会保険労務士の関与があれば、「これはまずい」と気が付く確率が上がり、弁護士に相談してもっともらしい理由をつけて普通解雇の手続きをしてしまうことがあります。普通解雇だと、解雇理由が無限に広がる場合があり、その一つ一つについて、事実に反するとか過大な低評価だと主張立証することは相当骨が折れます。それでもやり切って勝利和解をしなければなりませんが、膨大に手間暇がかかりしんどいです。この反証にもコツがあるのですが長くなるので省略します。

まとめますと、労働者側が行うことは、懲戒解雇がいかに唐突に行われたか、どうしてこの程度の理由で懲戒解雇となるのかということを、客観的事実と社会通念に照らしての論証によって、裁判官に認識してもらうかということになると思います。

逆に解雇されてから数か月たってから事を始めると、それ自体がハンディキャップになる場合があります。代理人としてもとてもしんどいです。いろいろな細かなことが曖昧になってしまいますが、不合理な解雇の場合は労働者側に有利な内容が曖昧になってしまいます。

付け加えると、雇用保険制度、税金などの知識も和解条項の作成などで必要なので最低限度の知識は身に着けておくべきです。

<使用者側に向けて>

一番大切なことは、解雇は慎重に行うべきだということです。特に懲戒解雇は慎重に行うべきです。解雇した側が結構大きな組織なのに、人事権者が特定の労働者と感情的に対立し、目の上のタンコブのように扱っていて、やめさせたがっているときに、つい、これはいけるのではないかと思って、理由をつけて懲戒解雇をしてしまう場合が多いように思います。

確かに上司から見ればその労働者が一人いるだけでやりにくいと感じるとか、自分の立場が他の労働者からも軽く見られるようになるのではないかと危機感を抱かせる人間はいるものです。どっちが経営者かわからず、資金繰りに苦労してなんとか会社を維持していることがバカらしくなる場合もあります。これは経営者の立場で考えることができればよくわかります。

ただそういう経営者の気持ちの問題はあるとして、裁判所から見れば、労働者はその会社で働くことによって生活が維持されているので、退職金の出ない懲戒解雇は人ひとりの人生が破壊されかねないとみられるのです。

懲戒解雇をしてやれやれと思っていると、裁判所の手続きを通じて懲戒解雇が無効になり、下手すると何年か働いてもいない労働者に賃金を支払い続けなければならないことになりかねないということです。

経営者からすれば懲戒解雇が有効になるハードルは思った以上に高いところにあります。

例えばやめさせたがっていた労働者が何か事を起こしたとなると、やめさせたいと思い続けてきた経営者にとってはそれが十分懲戒解雇の理由になる大きな出来事だと思ってしまうという現象があります。心理学では確証バイアスと呼ばれる心理効果です。

しかし、労働者側の代理人弁護士は、それがいかに理由のない懲戒解雇であるかということをいとも簡単に論証してくるものです。

人ひとりを解雇するというのであれば、裁判所の動向を知っている弁護士と相談して、くれぐれも慎重に進めていく必要があります。

無謀な懲戒解雇が行われるのは、代替わりなどで経営者が交代して、自分の地位が確立していないと新経営者本人が感じているときによく見られます。そして、周囲がイエスマンばかりで本当の意味で新経営者を支える能力のない場合ですね。その労働者がいるとやりづらいとか、不愉快な言動をするという経営者の心情に共感しすぎてしまい、解雇という手続きが可能か否かの観点から自分の頭で考えて経営者に意見を言えないという意味で能力が無いわけです。経営者に寄り添ってしまっている場合です。とある業界では、まさにこのタイミングで怪しげな経営コンサルタントが入り、次々と会社が倒産してしまった例が実際にあります。自分の立場に不安を感じているときは、それに付け込んで利益を得ようとする人間がいるということは頭の中に入れておくべきです。

次に解雇という選択肢が譲れないとしても、懲戒解雇は回避した方が賢明である場合がほとんどだと思います。
普通解雇を選択する場合でも、裁判所から正当な解雇理由があると判断できるように客観的な証拠をきちんと集めておく必要があります。特に新経営者不安型の解雇の場合は、解雇理由が曖昧で、噂話のたぐいまで根拠に引っ張り出してしまい、かえって理由のない解雇ではないかと裁判官から見られるような解雇があります。つけないほうがましな解雇理由が目につきます。会社側の陳述書の書きすぎをやめさせるのが代理人の役割かもしれません。(労働者側はわずかにのぞかせている無理筋を端的に指摘して無理を通そうとしているということを明確にする必要があります。)

そして、解雇を決断する場合、特に懲戒解雇を決定する場合は、法的に成り立つのかの見通しを専門家に判断してもらうことをお勧めします。その際、解雇という選択肢がとれない場合の、その労働者との付き合い方など労務管理上のアドバイスもできる弁護士であればなおよいと思います。

最後に、解雇を相手に告げるときにも、専門家に相談するべきです。くれぐれも、感情に任せてクビを宣告してはいけないということです。専門家に解雇理由の裏付けとなる資料を確認してもらい、解雇後に行うべきことも確認してから解雇通知も作成してもらい、会社代表者名(個人事業主名)で解雇通知をした方が無難でしょう。

せっかくいろいろと解雇のための手続きを進めても、わずかに法律上の要件を満たさないために不利になってしまうこともあるので手続きの確認をしていくことも大切です。

どのタイミングで専門家に相談するかについて時間系列に従って述べますと

1)懲戒解雇をしたい労働者がいる場合に懲戒解雇ができるか、どうすればできるか、普通解雇に転換した方が良いのか、そのためにはどのような準備が必要かの相談
2)懲戒解雇の手続きを始めるか否かの段階
3)解雇通告の際の相談

特に3)は、2)と独立して確認の意味を込めて相談をする必要があると、これまでの事例を見て思いました。

無理な懲戒解雇は無駄なお金が膨大にかかる危険があります。経営者本人も取り巻きも冷静に考えることが実際は難しく、それ故に判断ミスをする場合が多いということを述べてきました。その解決方法は、類似事例の経験が豊富で物事をはっきりと述べるずうずうしい弁護士の意見を聞くということに尽きると思います。

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