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オールドタイプとニュータイプのメリットデメリット 弁護士と依頼者の関係で注意するべき「組織の論理」 政党候補者による若年者支援NPOに対する批判ツイートに大いに学ぶ [事務所生活]


1 政党候補者の若年者支援NPOに対する批判ツイート事件

  現在インターネット上では、若年女性支援の一般社団法人への公金支出が話題になっています。様々な人が様々な発言をしているようです。その中で、同じように若年者の支援をしているがNPO法人に対して、某政党の国政選挙立候補者が、以下のような批判ツイートをしました。
・ (無償での活動を強調しているが、)正当な報酬を否定することは問題だ。活動自体が疲弊してしまう。
・ 報酬ではなくて「ありがとう」が活動の原動力だというは典型的なブラック企業の宣伝と近い

この政党人の意見も確かにそうだと思う部分があって、ボランティアでできる分野と、ボランティアではできないためきちんと職業化して生活の基盤を確立して技能を制度的に高めるべき分野があるということは間違いないのです。これをはじめに指摘した人が、あの有名なナイチンゲールで、それまでボランティアだった戦時看護の職業化に貢献されたわけです。

ただ、このNPOについての情報を私があまり持っているわけではありませんが、代表の方は無報酬でするべきだと言ってはいないようです。無報酬でやらざるを得ない状態を問題視されているように思います。

そもそもこのNPOの活動は賞賛されるべき活動であり、突然第三者に否定されるべき活動ではないと思われます。SNSという誰にでも見ることができる形で批判をすること自体が普通に考えれば理由がわかりません。「典型的なブラック企業に近い」という言い方には強い抵抗があります。その政党人の方は、誰かからありがとうと言われることが活動の原動力にはならないのでしょうか。私はなります。確かにありがとうだけで報酬は払わないという企業があればそれはブラック(違法)企業でしょう。このNPOがそんなことをしているという裏付けは何もないように思われます。あまりにも唐突な論難だと感じました。

経済基盤の確立についてアドバイスするならば、友誼的な方法と表現でアドバイスをすることがあるべき姿だと思います。それが突如SNSで批判をした方が、国政政党の正式な国会議員候補者だというのですから、これを読んだ時の違和感は強烈なものでした。私だけでなく、なぜ一介のNPO法人に対して、国政政党の幹部が攻撃をするのかという疑問を多くの人が持ったことだと思います。

しかし、ここでは政党人に対する批判をすることが目的ではありません。ここでの目的は「組織の論理」の弊害について学ぶことです。格好の教材として使えると思いました。

この政党人は、批判を受けている一般社団法人を自分たちの仲間だと感じていたのでしょう。そしてその仲間をかばおうとしてツイートしてしまったと考えるとよく理解ができます。

その一般社団法人は、現在東京都の若年被害女性等支援事業を受託して、都と国から巨額の公的資金が投入されています、特に人件費にも大量の公金が支出されていることを理由の一つとして批判されていると感じていたのだと思います。だから、攻撃対象となったNPO法人が無報酬を述べていることが、一般社団法人を批判するために強調しているように感じたのでしょう。そのNPO法人は、政党人が守ろうとした一般社団法人ではない別の団体に対して抗議をしようとしていると再三言っていたのですが、政党人からすると自分たちの仲間の一般社団法人が攻撃されていると感じてしまったということになります。

なぜ、この政党人が一般社団法人を仲間だと感じたのかその理由はわかりません。

しかし、「人間はひとたび仲間だと思ってしまうと、仲間を助けたくなる性質がある」
というのが対人関係学の結論です。そうして、仲間を助けることだけに感情がフォーカスされてしまい、全体像を冷静に見ることができなくなり、無条件に仲間を守ろうとし、無条件に相手が敵だと感じてしまい、相手の人間性や人間関係、あるいは感情や人権など人間として他者に配慮しなければならないことを配慮できなくなり、その結果攻撃をしてしまうという問題行動をしてしまうわけです。これはその人の政治的な思想傾向に起因するのではなく、人間が組織を作る場合に伴う「組織の論理」の弊害なのです。

特にポイントとしては、対立当事者の一方に味方しようとすると、他方当事者は人間として配慮することができなくなるということです。   

また、ひとたび仲間だと思うと、仲間の方の落ち度、仲間が修正するべき点が目に入らなくなります。この政党人は住民監査請求の結果を見てもなお一般社団法人の会計上の問題を些細なミスにすぎないという趣旨の発言もしているのです。しかし、これはミスとは呼べません。ミスと呼んではだめなのです。「Colabo問題から前向きに考えるべきこと 1 東京都若年被害女性等支援事業の監査結果の読み方と今後の訴訟の行方」https://doihouritu.blog.ss-blog.jp/2023-01-11

ちなみにわたしは、一般社団法人と政権についての批判の基準にはダブルスタンダードがあっても良いと思っています。つまり政権ないし政治家(与野党問わず)に対してはより厳しい基準で批判するべきだと思います。そうでない場合はそれほど気日く批判しなくても良いのではないかと思ってはいます。しかし、今回東京都監査委員会が指摘した会計上の不適切処理は、やはり批判に値する重大な落ち度ですし、適切な会計処理をしないということは高額な予算を動かす組織としては致命的な問題で、是非とも修正しなければならないことだと思っています。

こういう思想的な深刻な問題を簡単なミスと強弁するのは過度に仲間を守ろうとしている意識になっていることを表しています。仲間のミスを無かったことにしようとするのが組織の論理です。それにしても法律を作る国会の議員になろうとしていた人が、あの監査結果を見てもなお単純なミスであると評価し、その認識を公のものにすることには深刻な問題があります。現物を読んでいないか、現物を読んでも自分の頭で考えず、組織の評価を覚えて繰り返しているだけなのだという可能性があります。読んで自分の頭で考えてそれでも単純ミスだというのであれば、法律を作る仕事には向いていないというほかはありません。しかし、これは思想の問題ではなく「組織の論理」だということを言いたいわけです。

そして組織の理論は、政党のように強固の組織だけではなく、仲間だと思った相手が攻撃されているときにも発動されるのだということが学ぶべきところである。学ぶべきポイント
・ 仲間が攻撃されているのではないかと過敏になる。
・ 頼まれないのに仲間を応援したくなる。
・ 対立当事者を敵とみなして、人格や社会的立場、その人の人間関係等人間としてするべき配慮ができなくなる。
・ 仲間の側の修正するべきポイントが見えなくなり、無謬論に立ちやすい
・ 二者択一的な思考であり、敵が勝つか味方が勝つかという発想になっている。
・ その場合の仲間は、組織的な仲間である必要はなく、心情的な仲間で足りる。

2 弁護士と依頼者との関係に引き直して考える

我々弁護士は、対立当事者の一方の代理人として仕事をします。強固な組織ではなく仲間だと思うと組織の論理が出現するとなると、弁護士の仕事上も組織の論理が出てくる可能性があり、特に注意をする必要があります。

私が弁護士になった30年くらい前と現在とを比較すると、弁護士の意識が随分変わってきています。

当時先輩方から言われたことは、弁護士は勝ち負けではなく、紛争をどう解決するか、いかに紛争を鎮めるかということを意識しながら代理人の活動をしなくてはならないということでした。つまり依頼者の言い分だけを無批判に取り上げてどこまでも対立を進めていくのではないということです(オールドタイプ)。

反対に昨今の風潮は、極端に言えばですが、まさに組織の論理で、依頼者の代理人は、対立当事者を敵とみて、依頼者の主張する利益を唯一の目標として活動をするのであり、あくまでも勝ちを追及して、対立当事者に対する配慮などは不要だという極端に言えばそういうタイプが台頭しているように感じます。(ニュータイプ)。

オールドタイプにもニュータイプにもメリットデメリットはあります。
<オールドタイプ>
メリット:依頼者の言葉にした要求にこだわって、依頼者が考えが付かないメリットデメリットを見過ごしてしまうことを防ぐことができる。例えば裁判では勝っても回収できないならば、より多く回収できる方法として和解という方法を選択することや、ここで損害賠償を支払うことによって紛争を終了して企業の悪評が高まらないように配慮できる。そもそも紛争を最終的に決着させて心休まる状態にし、依頼者の本来の生き方に専念できるようにする。和解による解決が多くなり、無駄な争いをしなくて済み、解決までの時間が短くなる等可能性が広がる。

デメリット 依頼者からすれば、弁護士が独自の見解を述べてきて、依頼者の希望を否定するので、自分の意見が尊重されない。否定や部分的修正を求められることで不満が残りやすい。
相手に譲歩する気持ちがないのに譲歩を迫られるので納得できない場合がある。

<ニュータイプ>
メリット:自分の意見を尊重してくれる。自分の自然にわかる範囲では自分を肯定してくれる。一生懸命やってもらっているということがわかる。
デメリット。オールドタイプのメリットの反対ということになるでしょうね。特に、最後まで敵対活動をすることによって、裁判が終わっても敵対感情が相互に残ってしまうということです。その結果自分にもあるいは第三者にも(子どもとか)に不利益(特にメンタル)が生じる可能性がある。というところでしょうか。

もちろん、オールドタイプで行くかニュータイプで行くかは、事案にもよりますし、最終的には依頼者の判断任せるということになります。弁護士はできないことをできないということはどちらでも必要です。

ニュータイプの場合特に注意しなければならないことが組織の論理です。

味方の落ち度を無かったことにする。あるいは過小評価してしまう。相手の利点を過小評価してしまう。
その結果最大の問題としては、
1 見通しを間違い、戦略を間違う危険があるということでしょうか。心理的問題があるということを自覚することで大分問題会費ができると思います。

2 対立当事者に対して弁護士倫理に反するような攻撃をしてしまう。弁護士の品位を害する行動、活動をして懲戒問題が生じてしまう可能性があるということにも注意が必要だと思います。

冒頭挙げた政党人は、国政選挙の候補者になるのだから、おそらく立派な人であろうと思います。その人でもあのようなツイートをするのです。組織、仲間意識というのは無条件に肯定されることではなく、弊害があることだということは頭に入れておいて損はないと思います。

つまり人間の思考は、人間と人間が対立しているときに介入することに適しておらず、猛獣に襲われた仲間を助けようとする感情がつい出てきてしまうということなのだと思います。

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