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【公務災害認定報告】本部審査会による逆転認定 持ち帰り残業が残業時間として認められる基準が示された事案 [労災事件]



私が弁護士になって担当した、4回目の地方公務員災害補償基金審査会での逆転認定ということになります。

今回は、離島だった島の小学校の教頭先生が、心筋梗塞でお亡くなりになった事案です。教頭先生ということで、事情が分かる方は、忙しいお仕事だということをすぐにお分かりになると思います。こちらの先生は、教頭先生のお仕事だけでも忙しいのに、教科も受けもたれられていた上に、教育委員会の仕事もたくさん引き受けられていたという事案でした。
それにもかかわらず、宮城県支部長段階(裁判で言えば第一審みたいなもの)で公務災害とは認められず、支部審査会に審査請求(異議申立)をしても(裁判で言えば高等裁判所に控訴しても)認められず、本部の審査会(裁判所で言えば最高裁判所みたいなもの)に再審査請求をして、ようやく公務が原因で心筋梗塞になって亡くなったという事実が認められました。亡くなってから認定されるまで約5年が経過していました。

勤務地は、船でしか行くことができず、船の始発の7時前に船に乗り、夕方の7時前には船で島を離れなくてはなりませんでした。小学校の教頭先生は、膨大な仕事があるため、どうしても船のある時間に仕事が終わらず、自宅に仕事を持ち帰られなければならないので、家でも仕事をしていました。これが持ち帰り残業です。

この持ち帰り残業が、請求者の主張通り認められれば、過労死基準をかなり超える時間の残業時間となるので、公務災害であると認定されるはずです。しかし、自宅での仕事は、実際にどのくらいの時間働いていたかについての証明が難しいこと、勤務場所での労働ではなく、自宅での労働なので緊張感、ストレスが大きく違うので、過労死認定における労働時間だと言えるかという2点が問題になります。

主としてこの2点を理由に、支部審査会までは公務災害であることが否定されました。
本部審査会は、持ち帰り残業が、労働時間として過労死認定に考慮されるための基準を明確に示しました。

「職務が繁忙であり、自宅で作業せざるえ終えない諸事情が客観的に証明された場合については、例外的に、発症前に作成された具体的成果物の合理的評価に基づき付加的要因として評価される。」
となりますので、これを分解してみると
1)職務が繁忙であること
2)勤務場所ではなく、自宅で作業をしなければならない事情があること
3)具体的成果物を合理的に判断して労働時間を評価できること

ということになります。

1)繁忙については、当事者が忙しくて疲れるということを実感するのは良いとしても、「繁忙」であることを認定する人に伝えなければなりません。これはなかなか難しいことです。
 認定する人は教師等現場の仕事を分かっていない人が多いということがこれまでの経験から感じていたことでした。ともすると、「過労か否かを認定する立場の人は仕事内容を習熟しているはずだ。」、あるいは、「習熟しているべきだ。」と無意識に考えてしまいがちです。これは「違う」と考えて活動を行うべきだと思います。知らないことを非難しても公務災害認定はなされません。そのためにどうするか。
 先ず、通常の職務に伴う仕事の内容をきっちりと伝えることが必要です。幸い、友人に教頭先生がいて、みっちりとしつこいくらい話を聞くことができました。どういう仕事の内容があって、どれがどのように大変なのか。朝学校に来てから帰るまでどの時間帯にどのような仕事をするのか、年間を通すとどのような仕事をするのか。何をどう聞けば、認定者が理解できるようになるか意識しながら聴き取る必要があります。
 次に、その職場その職場でプラスアルファの仕事がありますから、そこは各職場の内容を知っている人から教えてもらわなければなりません。幸いにも皆さん大変に協力していただき、この点も成果が上がりました。実際にその職場に行って、実際に活動しておられた動線を自分も辿ってみました。
 そして、その次に、その人の特別事情も知らなければなりません。この教頭先生は、通常の教頭の先生以上に教育委員会の仕事を、しかも困難な頭を使わなければならない仕事をたくさん行われていました。この仕事を理解すること自体が一苦労でした。言葉で聞いただけでは全く分かりません。実際に現地に赴き、成果物、発表物を写真に収め、パンフレットを見て、ホームページも見て、ようやくおぼろげにわかりかけてきたというような段階でした。
 そうやって、ただでさえ忙しい教頭先生なのに、さらに膨大な仕事をしていらっしゃったということがわかりました。
 それを認定する方々に説明する必要があるわけです。自分が実際にこの資料で理解できたという資料を画像にして示すということも効果があったと思います。
 繁忙を伝えるというプレゼン技法も、だいぶ考え抜いたつもりでした。プレゼンの際の話す速度や資料の活用方法なども基本を押さえて行ったつもりです。
 期限内にやらなければならない仕事がこのようにあったのだということが、まず代理人のやるべきことということになります。

2)自宅で作業を行う必要性
 先ず大前提として、職場にいる時間で仕事が終わらないという事情を示さなければなりません。その上で、船の時間のため、職場を退出しなければならなかったと続くわけです。1)の活動が前提となるということが大切です。さらには、仕事には期限があるということも自宅作業の必要性の重要なポイントですから、これもきちんと証明する必要があります。

3)成果物などの証拠
 この点で、支部審査会などと対立しました。ポイントは、成果物の内容が相当時間を要する内容であり、その時間については上司の方々も認めていたのですが、支部審査会は成果物を形式的にとらえました。つまり、文書の最終更新日の時間によって残業時間を認めようというものでした。これだと、2日以上に分けて少しずつ作った文書は、最後の1日だけが労働時間と認められて、前日の途中作業は更新されて消去されていますから労働時間だと認められないという不合理があります。ここは、大問題です。成果物の更新記録だけではなく、パソコンの作業時間を示す資料などを分析し、作業していたことの立証を行いました。ここは、ご遺族の方が発見して立証に成功したところも大きく認定に貢献しています。本部審査会もこの点について興味を見せていただき、最終的にはパソコンの提出も求められました。調べていただいたということになります。
 しかし、それは最後の決め手ですが、その前提として、ご家族のご自宅での様子、特にルーティンの様子、上司の方の成果物の評価がなくしてはこの最終トライにはつながらなかったと思います。

 本件は、管理職ということで労働組合の組合員ではなく、組合に対して積極的に支援を要請した事案ではありませんでした。それでも、亡くなった先生を知る多くの方々に様々な協力をしていただきました。亡くなった先生のお人柄が偲ばれるとともに、多くの学校現場の方々の、この事例が過労死として認められないことはおかしいという義憤のようなものを感じました。お一人お一人に頭が下がる思いです。

感想
自身4度目の逆転認定ですが、何度でも認定通知が届いた瞬間の興奮が無くなることはありません。今回も逆転認定にならなければ行政裁判だと気を張り詰めていたということもあり、喜びはひとしおでした。しかし、労災事件の常なのですが、今回の亡くなられた先生は、私と同い年でした。あと何年かで定年退職を迎える歳でした。先生もご遺族も、いろいろな夢があったと思います。ご自身の趣味の活動に時間を使うとか、新しいことに挑戦しようとか、家族で旅行に行くとか、まさに当時の私と同じように色々なことを考えておられただろうと思うのです。認定がなされてご家族の生活のご心配が軽減されたことは大変喜ばしいことですが、何ともやりきれない思いも実は大きくあるわけです。
そのためなんとしても過労死予防こそ第1に取り組まなければならないことだと思い、何かの役に立てばと思いこのご報告記事を書いた次第です。

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