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【東北希望の会だより】うつとともに生きる環境の整備の提言をしたい [労務管理・労働環境]



先日東北希望の会の例会がありました。新らたに若い弁護士さんが参加されたということで、現在力を入れている、今年初めに裁判で和解した中学校の先生のパワハラうつ病の事件をおさらいしました。ここ2年間の活動と、私が入ってからの8年間の公務災害(頸椎と精神の2つの異議申し立て)と訴訟活動も振り返ることができたので大変貴重な時間でした。それぞれの立場からの発言があって、いつもに増して勉強になる2時間でした。

その中で、これまでの例会の中でアイデアが出てはそのままになっていたモヤモヤがようやく形になってきたので、議事録変わりを作成し報告したいと思いました。

こちらの先生は、平成23年からうつ状態となり、現在も通院をし、薬を服用しています。それでも、今年の夏に「復職訓練」をして、秋深まったころから職場復帰を果たして2か月、大きな崩れもなく働き続けています。それまでの復職と休職を繰り返していた時を思うと奇跡のように外野からは見えるのですが、ご本人、ご家族は、毎日の努力をされていることを聞いて改めて驚きました。

さて、その「復職訓練」が問題です。そのことを批判するというより、現代社会では何が足りないか、何を足し上げればよいのかということがわかりやすく説明するので、取り上げるということです。

その職場の「復職訓練」ですが、日程を告げられたものの、訓練スケジュールなどは事前に提示されない状態だったそうです。そして、暦に従って毎日、労働時間の半分くらいをめどに出勤をするという内容でした。そして復職訓練後に、復職をするかどうか審査の会議があって後日結果を告げるというものでした。

この説明で疑問を持たれた方は、素晴らしいです。通常の私たちは、職場側が、その人が復職できるか見極める必要があると考えますよね。そして、その復職できるかどうかですが、うつ病で休職していたばかりだから、ある程度症状は残っているでしょうし、長期間仕事から離れていて仕事の勘というか、身体の馴れというかが鈍っているとは思いますよね。それで訓練だから職務内容の軽減はするものの、その程度をこなされるかどうか判断する機会が必要で、それが「復職訓練」の時判断する。こう考えられる方も多いのではないでしょうか。

何よりもご本人が、詳しい内容は告げられず、日程と、訓練終了後の審査があるということだけを告げられていましたので、これから行われるのは訓練ではなく審査、復職適性の試験だと感じていたようでした。

実際は、これまでご本人を支えてきた、組合の方々が教育委員会や校長先生と面談されて、ご本人の心情を説明しながら、復職訓練のプログラムを書いた書類を交付し、ご本人にも審査ではなく訓練だと安心させて訓練に臨むことができるようにしてくれました。

ここで、例えば仕事時間を半分にして、仕事内容をさらに減少させて、それでもうまくいかないなら復職できなくて仕方がないのではないかと疑問を持たれる方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、うつ病が治っていても、やはり不安を感じやすくはなっていますし、悲観的な見通しをつい持ってしまいやすいというところはどうしても残るようです。これは、うつ病の症状が残るだけでなく、長期間職場を休職している場合、前の何とかやり抜いていたという記憶が回復せずに、困難な出来事の記憶だけが先行しやすいという人間の特徴を把握していません。夏休み明けに学校に行きたくないとか、ゴールデンウイーク明けに職場に行きたくないという心理を良く理解していないことになります。これを克服すためには、職務内容のハードルを下げて、成功体験を重ねていくことによって安心感を獲得していけば、何事もなく仕事をしていた時の記憶に重ね合わせることができますので、馴れを取り戻すことができるようになるのです。これはうつ病明けに限らず、長期休暇明けでも本来必要な作業だと私は思います。

だから文字通り復職訓練は訓練としてとらえなければならないはずです。むしろ最初は、あいさつ程度にして、迎える側も口裏合わせて歓迎ムードを作る。基本挨拶をにこやかにはっきり返すということが安心感につながります。敵意の目を向けない、批判めいた話をしないということがとても大切です。そうして、体が慣れるまで1,2週間程度は、隔日勤務が良いのではないかと思います。

1か月程度の訓練期間だと、間に疲れが出る日が出てきます。例えば1週間隔日勤務になって、2週間目は週休3日ないし2日とし、3週間目が終わったら休日をいれるというような感じで、訓練をしていくと馴れがスムーズになります。

そうやって体と心を馴らしていくというのが訓練だと思います。

つまり、復職訓練の時の状態の心身の回復状態を査定するのではなく、復職訓練によって良い方向に心身を変化させていくということが復職訓練なのです。

ここまでお話ししていくと、そこまで会社が一労働者を手厚く面倒を見ることは現実的ではないのではないか、労働者自身が働くことのできる状態に自分を持っていく義務があるのではないかと思っている方もいらっしゃるのではないでしょうか。

中には、うつ病の方を無理に働かせるということに抵抗をお持ちになる方もいらっしゃると思います。

確かにケースバイケースということは考えなければならないことかもしれません。ただ、考えるべきは、社会におけるうつ状態の蔓延ということだと思うのです。

うつ状態という心理状態を抱えながら働いている人がどれくらいいるか手掛かりがありませんが、かなりの人数に上るのではないでしょうか。うつ病に限らず、適応障害やストレス後後遺症、パニック障害や全般性不安障害という病名が付く場合もあるでしょうし、一定の内科疾患や薬の副作用にもうつ症状が現れる場合があります。学校の先生の休職者も多いようです。

うつ病患者を抱えて生活している家族もかなり大人数になっているはずです。

しかし、うつ病患者やその家族と言っても、必ずしもうつ病を理解している人は多くないのではないでしょうか。それなのに、元気になるのは本人の責任だというのでは、なかなか回復をすることができないでしょう。うつ病になったのが会社が原因だとすれば、その会社に復帰しなければ社会復帰ではないと考えてしまい、さらに会社がうつ病者は使い物にならないという態度を改めなければ、職場復帰は無理だということになれば、悲観的な傾向が進んでしまい、他に転職するというアイデアも選択できないかもしれません。

公務員や大企業が、うつ病からの職場復帰のプログラムを整備し、実例を増やし、実績を宣伝していくことによって、うつ病からの職場復帰の方法が示されるので、職場復帰がしやすくなる人たちが必ず増えると思うのです。

また、うつ病で働けないとしても、社会は必ずしも手厚い保護をしてくれるわけではありません。家族としても、今後の生活を考えると希望を持つことができない危険も大きいと思います。

一方、社会に目を向けてみましょう。後ろ向きな表現をすれば、うつ病で就労できない人たちは、最終的には生活保護などの福祉によって生活を保障しなければなりません。前向きに言えば、やり方次第で復職して自助努力で自立できる人たちが大勢いるのに、国や大企業が十分理解できないで復職の道を閉ざしている。復職が可能な人たちが復職を果たせたら、大きな経済効果が期待できると思います。

じつはさらなる効果が期待できるのです。復職の際の使用者側のノウハウというのは、実は休職しないで働く人たちにとっても優しい職場を実現します。うつ病の診断を受けないまでも、心身のストレスと元々の性格から、悲観的な考えで仕事をしているとか、はっきりしない不安を抱えて働いている方は多くいらっしゃいます。そういう方々にとっても、簡単な対応を変えるだけで働きやすくなるわけです。

例えば先ほどの言った挨拶です。この挨拶の意味づけを義務的なものでなく、あなたとの今日の出会いを歓迎している。こちらはあなたに敵意はありませんよという意味付けに変えるのです。そして、こういう挨拶を意識的に行うことによって、無意識の不安が軽減される効果が期待できるわけです。

例えばということでこういうことがアイデアとして出てきます。うつ病がなぜ起きるのか、うつ病になるとどういう思考をして、あるいは何ができなくなるのかということを理解すれば、まだまだ快適な職場にできるのにしていないだけということが見えてきます。

うつ病という病理から、職場の指示系統や合理的で効率的な指示の方法、計画の立案、目標の設定と共有の方法、あるいは顧客対応等多くのヒントが提示されていくのです。

さらに今回の一連の出来事から学ぶことができた点としては、今回で言えば労働組合の人たちの役割です。職場の実態を隅々まで熟知していた人が、一方的に労働者の利益を主張するのではなく、どのように職場復帰訓練を進めれば、本人にとっても、職場にとっても効果が上がるかということを具体的にアドバイスをするという役割を果たした人の存在が復職訓練を成功させたカギだったように思われました。今回は、たまたまこういう人がいたという幸運がありました。通常の職場復帰の場合には、なかなか難しいです。本人が探すことは無理である場合も少なくないでしょう。双方の橋渡しをするアドバイザーを制度化するということが有効だと思います。OBの方々の活用がヒントになるように思われます。このアドバイザーたちが仕事をしやすくし、効果を上げるためには、ガイドラインのようなものを作る必要があると思います。訓練されていない人は、どうしてもどちらかに忖度して、どちらかの利益を図ってしまいがちです。双方のために活動をするということが大切ですし、基本的にはうつ病者に対して配慮をしながら進めていくという立ち位置にはなると思います。あとは、職場の方がアドバイザーのアドバイスにきちんと反応する体制をとるということです。

ところが、これだけうつ病者や休職者が多いにもかかわらず、体制が従前の昭和ののどかな時代で行われているように印象を受けます。このようなうつ病者の状態は一朝一夕に改善されるとは思われません。きちんと予算をとって現場とは別建てで対応しなければ、現場は負担ばかりかかってしまうか、切り捨てが横行するような職場風土の元で、本来の機能が不能状態に陥る危険が高いです。

がんとともに生きるというムーブが昨今あると思います。うつとともに生きるというムーブがあっても良いのではないかと思うのです。うつ病にかかる人は、まじめで責任感が強く、能力も高いのでつい無理をしてしまう人たちだというのが私の実感です。安心して働く場が与えられれば、能力をいかんなく発揮して社会全体の生産力も上がると思っています。何とかして動きが生まれる方法がないか東北希望の会の活動としても考えていきたいと思いました。

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