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ギャンブル依存と対人関係学、デカルトの誤りのこぼれ話 [事務所生活]

ギャンブル依存も、アルコール依存も、
その病院が、専門性を持って取り組んでいるところほど、
患者に対する対応が厳しくなるように感じている。
病院は、患者を治そう、そのために、
意志の力をつけてほしいとして、厳しく対応されているようだ。

われわれは、ギャンブル依存患者も、アルコール患者も、
通常は、そのことによって生じた対人関係上の
不具合(破産、離婚,刑事事件等)
を手当てするというクライアントであるから、
治療を試みるということはない。

このためか、病院の対応は厳しすぎると、つい感じてしまう。
病気なんだから、その人の意思が弱いからといって、
その責任をすべて本人に取らせるということ自体が、どうかと思う。
要するに、強い意志を持たせなかったのは、
治療機関の責任でもあるはずなのにと、つい考えてしまう。

法律家的発想としては、
アルコールなどに手を出してしまうというのは、
それが病気の本質であり、いわば、規範意識をもてないということが、
病気たるゆえんである。
規範意識をもてない人に、規範違反の行為をしたかといって
責任を問えるのかというのが、法律家の発想である。

刑事弁護などで、
「被告人が、自分は意志が弱かったから罪を犯してしまった。
これからは、意思を強く持ってがんばる。」ですむなら、
弁護士は何も苦労することはない。
本気で被告人の更生に関与したい弁護士は、
腹筋を鍛えるわけではないのだから、
意思という抽象的な議論をしても何も始まらない、
もう少し具体的に考えなければだめだ、
意志が弱い、人に流されやすいは、
反省としてはまったく評価できない
と被告人をそれこそ厳しく叱咤するわけである。

話を散漫にしないために、ギャンブル依存に絞ることとする。
おそらく、ギャンブル依存症に取り組む医師は、
ギャンブルにはまったことがないのだろう。
アプリオリに、その患者は、
ギャンブルにはまりやすい脳の構造を先天的に持っていて、
この脳の領野の問題や、分泌されるホルモンの調整を、
投薬によって行おうとしているのかもしれない。
後は、意志の力というのは、
もしかしたらあまりにも軽く把握しすぎているかもしれない。
対人関係学は、その人が、どうしてギャンブルにのめりこんだか、
その理由に着目する。
一般にギャンブルにのめりこむには、理由がある。

理由は2つ。
ギャンブル教育がなされていないことと特定の対人関係からの逃避である。

たとえば競馬が盛んなオーストラリアでは、
小学校で、競馬の馬券のシュミレーションを行う。
班ごとに胴元と子を作り、馬券の売り買いをさせる。
そうして、馬券を射幸心と切り離したものにする。
オーストラリアでは、競馬で破産した人はいないとされているが、
おそらく、例外的な事例を除いて、それは正しいのだろう。
ちなみに、イスラム教徒は競馬にお金をかけない。
ドバイのレースは馬券を売らない。賞金のみである。

日本でも、公営ギャンブルを禁止しないのであれば、
馬券のかけ方や楽しみ方、パチンコのお金の使い方を
小学校から教えるべきである。
これをしないで、刑法の賭場開帳罪を適用しないことは、
国がギャンブルで身持ちを崩すことを放置することである。
国の責任は大きい。
これをしないため、ビギナーズラックに味を占めて、結局は損をする。
漫画や専門誌は、あたかもパチンコや競馬で生活が成り立ったり、
充実するような記事を掲載し、それをあおっている。

パチンコや競馬が認められているのに、
トランプやノミ行為が認められないということは、
形式的に法律が禁止しているということは理解できても、
実質的に禁止されるべき理由は
なかなか腹に落ちないということは多い。
金の賭け方を教えないなら、ギャンブルは一切禁止にするか、
一レースの掛け金に上限を設けるべきである。

次の問題は、対人関係からの逃避である。
ギャンブルを知らない人は、なかなか理解できないことだが、
たとえばパチンコならば、その人がはまっている機種があるし、
競馬なら特定の情報源がある。
私は、ギャンブルが原因で社会的病理を招いた人に対しては、
これらのことを尋ねることにしている。
そうして、その人の依存度をチェックする。

極端な話をすれば、真正のギャンブル依存症の人は、
勝つことを目的としてお金を支出していない。
ただ、お金を使って、時間をつぶしたいだけである。
何かに夢中になっていなければ、体が持たないということである。

アルコール依存症患者が、
酒を味あわないことと一緒かもしれない。
アルコール依存症も、結局は、酔っ払っていたい、
意識を断絶したいだけである。
その意味では、広い意味での自傷行為である。

対人関係からの逃避とは、
家にいたくない。会社に行きたくないというものである。
家に居場所がないという人は、
家庭で疎外されている、尊重されていないと感じている。
どちらかというと、これは男性のほうが感じやすく、
女性の実家に同居しているような場合は陥りやすい。
自分だけがのけ者になっている。
群れの中からはずされているという感覚を持ちやすいようだ。

また、会社でパワハラを受ける等、
周囲の中で面目をつぶされるようなことが多く、
いたたまれない気持ちになっている人は、
パチンコに没頭することが起こりやすい。

お金を使い玉を借り、うつろな顔をして盤面をみつめる。
大当たりが出そうになるまで、ほぼ無表情である。
大当たりが出ないいらいらと、
自分の置かれた境遇とオーバーラップしていく。
頭は活性化しているが、実のあることを考えてはいない。
意味のない図柄に意味を見出そうとしたり、そんなところである。
概ね大当たりは出ず、自分だけが差別されているのではないか等
自虐的なことをぼんやり感じている。
大体は、自分で自分を追い詰めている。
閉店時間になったり、お金がなくなったりして、店を出るわけだが、
目を閉じると、玉が外れ穴に落ちていく残像が焼きついている。
失ったお金で何が買えるなどというむなしいことを考えて
力なく家に寝にかえる。

いざ、大当たりが出ても、達成感ではなく、
この機に少しでも多く玉を出そうということしか考えていない。
ここでも急き立てられている。
当たりの喜びよりも、復讐を果たしているときのような、
店とともに、自分を傷つけている要素がある。
この儲けは、翌日以降の負け分に備えられることになる。

ギャンブル依存症患者が、
ギャンブルにのめりこんでいるときの願いは、
私を平等に扱ってほしいということかもしれない。
ギャンブルくらいは
平等にチャンスを与えてほしいという願いかもしれない。
おそらく、客同士は平等なのだろう。
しかし、店との関係では、胴元が勝つようにできている。
そうでなければ、業務としては成り立たない。
それを知らない客もいない。
パチンコで身持ちを崩す少なくない割合にパチンコ店の従業員がいる。

アントニオダマシオらは、
前頭葉前野腹側部損傷の患者と健常者を比べる実験を行った。
カードをめくり、リターンは大きいがそれ以上にリスクの高いカードの山と、
リターンは小さいが、リスクはそれ以上に小さいので手持ちが増える山と、
それを告げないでカードをめくらせたという。
健常者は、山の特徴に気がついて、
リスクが小さい山をめくり、手持ちを増やしていった。
損傷者は、手持ちが減っていくことを認識していながら、
ハイリターン、超ハイリスクの山を
めくり続けていって手持ちを無くしていったという。

この脳の部位を損傷することは、
長期的視野にたって、行為を予測し、
自分に利益が与えられるということを予想できない
という症状が現れるらしい。
要するに、見た目の利益だけを追求してしまうということである。

ギャンブル依存症患者もこれに似たところがある。
長期的な展望を考えたら、
ギャンブルを行わないことが手持ちを減らさないことだということは、
ギャンブルを行うものは誰しも知っている。
しかし、掛け金をスルことによって、
経済的に困った状態になるということを予測して、
ギャンブルに手を出さないという当たり前のことが
できないのである。勝つことしか考えられなくなる。
ギャンブル依存症患者は、ダマシオのいう、
二次の情動が働かない状態になっているのである。
しかし、彼らは前頭葉前野腹側部を
損傷しているわけではない。
どちらかというと、特定の相手に対して、
二次の情動を働かせないようにしている
というほうがあたっているように思える。

ギャンブル依存症は、脳に損傷がない限り、
脱却することは難しいことではない。
通常は対人関係の状態の改善によって、うそのようにおさまる。
そうして、学生時代等にギャンブルにのめりこんだ連中は、
立ち直っているのである。
会社での持ち場が作られたり、家庭を持つことを機に、
自然にやめている者が大多数である。

ギャンブルをしていることが、
プラスの感情を抱いているわけではなく、
やらないことがマイナスの感情抱くだけであり、
大当たりでようやくゼロである。
一度離れると、どうしてあんなに無駄金を費やしたか、
どこから自分が資金を用意していたかわからなくなる。
だから、怖くてできなくなるのだ。

それでもギャンブルを続けている場合、
どこかに疎外を受けている対人関係があることが多い。
その対人関係の何が、彼を疎外しているのか、
なかなか自分でも気がつかないことが多い。
これを見つけ出して、自己肯定感を引き出すことが
依存症からの脱却の早道である。

意志を鍛えるということは、
理解を超えたフィクションの世界ではないだろうか。



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ドイホー

先ずは、NHKさん
http://www3.nhk.or.jp/tohoku-news/20140326/3228241.html

読売新聞さん
http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/miyagi/news/20140326-OYT8T00862.htm

昨日出張で、4時に帰る予定が、帰れなくなり、お問い合わせに応じることができなかった各者の皆様、大変ご迷惑をおかけ致しました。
by ドイホー (2014-03-27 11:27) 

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