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福岡5歳児餓死事件を題材に洗脳について考える 新たな犠牲者を出さないための方法を確立するために [進化心理学、生理学、対人関係学]


福岡県で、令和2年に起きた5歳児の餓死事件について、福岡地方裁判所は実母に懲役5年(控訴中)、知人女性に懲役15年という判決をだしました。

保護責任者遺棄致死罪という罪名でした。この犯罪は保護者という身分が無ければ犯罪は成立しません。保護者は実母ですから、このような犯罪の構造からすれば、主犯はあくまでも実母のはずで、知人女性は共犯者にすぎません。それでもこれだけ極端に処断刑が異なるのは、実質的には知人女性が主犯で、実母が共犯的な役割だったと判断していることになるのだと思います。

福岡地方裁判所の第2刑事部の判決を読んでみましょう。これは最高裁判所のサイトの判例検索で誰でも読むことができます。

なぜ主犯である実母が共犯者よりも刑が軽いのかという点では、判決5頁から理由が述べられています。
1 実母が知人女性の嘘に騙されて金を巻き上げられて、知人女性に依存しなければ食料も手に入らない状態だったこと
2 家族らとの人間関係も遮断されて相談いなかったする相手がいなかったこと
3 食事と睡眠が不足し、判断力が低下していたため知人女性に従わざるを得ない状況だったこと
4 自らの楽しみを優先させて子どもを放置したとは言えないこと
5 経済的にも搾取され、心理的にも支配されていたから強く非難できないこと
とされています。

私は証拠を見ていないので、判決の当否に言及できる立場ではありません。私が言いたいことは判決の当否ではありません。私が言いたいことは、二つです。第1に、ここまで極端ではないけれども、洗脳のメカニズムによって話を真に受けて、子どもに対して深刻な不利益を与えている親というのは意外と多いものだということ。第2に、洗脳のメカニズムを解明によって対策を講じて、同じような被害者を作らないということです。

この二つの問題は、今回の事件のようなケースだけでなく、日常の母子関係、夫婦問題、職場等の人間関係、もちろん宗教などのカルト的洗脳から家族を守る問題にも応用がきく問題だと思っています。

事件の事実関係については判決を基本として、これまでの新聞報道やテレビニュースで報道された内容で補っています。

事件報道については、知人女性の方がより注目され、知人女性が一方的に実母を支配していたとして非難する傾向にあり、知人女性の情報が豊富に提供されています。しかし、私が新たな犠牲児童を無くすために注目するべきだと考えるのは、実母の方です。確かに支配は一方的に行われるものですが、大人同士において支配を可能とする人間関係形成は一方的には行われえないと思っています。この支配、被支配の人間関係形成のメカニズムこそ解明するべきだと思っています。そして支配服従関係に入らないようにすることこそ最も大切なことだと思います。嘘をついて騙されたということで、そのような関係ができるものか疑問があるわけです。なぜ嘘をつかれてそれに従ったかということこそ大切だと思います。

また、支配を受けていたからと言って、実母が、どうしてわが子がやせ細っているにもかかわらず、「長期にわたって」食事を与えないということを「繰り返す」ことができたのかということも考えなければなりません。子どもの状態を見て、もはや限界であり、すべてを投げうって救急車を呼ばなかったのかということです。あるいは呼べなかったのかということです。

そのことを考えるためには、本来は実母の人となりを知らなければなりません。少なくとも、知人女性の洗脳が始まるまでに、何らかの身体疾患が無かったかということはぜひとも知りたいところです。

但し、一つだけ情報があります。知人女性と出会ったのは、平成28年とのことです。児童が5歳で亡くなったのは令和2年4月18日です。何月生まれかはわかりませんが、死亡前4年前で知り合ったのですから、児童は1歳くらいだったということになりましょう。全くの「可能性」の範囲を出てはいませんが、産後うつの状態にあった可能性があるということは言えると思います。

産後うつに限らず、いくつかの内科疾患にかかると、わけもなく常に心配ばかりしている状態になることがあります。特に産後うつの場合は、成人男性に対して安心感を持てなくなってしまい、夫に対しても警戒をするような状態、あるいは、信用ができない状態になることがあります。多くの離婚原因あるいは離婚の背景となっていると感じています。

この常に心配ばかりしている状態、安心でいない状態という、心の状態が問題なのです。洗脳がかかりやすい人は、何らかの心配をしている人で、何を心配しているか自分でもよくわからない人です。
但し、専門的な洗脳集団の場合は、このような心配を人為的に作り出して、その心配に乗じて行動を支配します。専門的な洗脳集団とは、カルト宗教を念頭に置かれると思いますが、それだけではなく職業的な詐欺も一種の洗脳の手口を使います。母親が子どもに対して、意図しているか否かはわかりませんが、洗脳の手法を使うことも見られます。

これまでの報道を見る限り、おそらくこの事件では、知人女性に専門的な知識や技術は無かったと思われます。専門的知識のない場合でも、今回の実母のようなターゲットが元々心配を感じすぎる傾向にあれば、洗脳が成立する可能性があります。

心配をする人は、心配したくて心配をしているわけではありません。むしろ、人一倍心配から解放されたい、安心したいという強い要求をもっています。また、本人だけの力ではなかなか心配を止めることができませんし、心配ばかりすることを責めることもできません。

わけもなく心配する人は、やがて他人から疎ましく思われることがあります。赤の他人のわけのわからない心配の面倒を見るということは負担にすぎますので、近づこうとしなくなってしまうわけです。あなたの心配を自分が心配を引き受けましょうと言う人は現代日本にはめったにいないわけです。これは必ずしも不誠実な態度ではありません。心配をしている人がいれば安心させたくなるということが前提となります。自分が安心させることができないから、ただ心配を聞くのがつらくなるということであれば、誠実な人だと思います。

もし無責任に、面白がって、ターゲットの心配に共感を示すふりをして、自分に任せれば何事も大丈夫という態度を示す人がいれば、心配が止まらない人からすればとても頼もしい人、頼りになる人という気持ちが芽生えることは想像できると思います。四面楚歌の中、味方になってくれる人というのは自分を助ける蜘蛛の糸のような存在でしょう。

残念なことに、産後うつの場合は特に、夫がその蜘蛛の糸にはなれないことが多いようです。産後うつの場合、夫がいくら家事をしても、妻はそれほど感謝する気持ちはわかない傾向にあることが多いです。夫から感謝や励ましの言葉があっても、なかなか肯定的感情がわかない、あるいは持続しません。言葉が右から左へ消え去ることが多いのです。しかし、それほど懇意ではないとしても年長の経産婦から共感を示されたり、不安を肯定されたりするとひと時安心し、報われた気持ちになることが多いようです。

今回の事件の知人女性が豪放磊落な人で、上手にターゲットである実母の心配に付き合うことができていたならば、ターゲットは知人女性と一緒にいることで安心感を得るという体験をしてしまったかもしれません。

さらに、ターゲットが人づきあいが下手でPTAなどで居場所が無い状態だったりして孤立を抱えていたのであれば、知人女性がターゲットのために居場所を作るとか、ターゲットが困っていることを助けるような出来事があれば、ターゲットはこの知人女性と一緒にいれば自分は安心だという学習を積み重ねていくようになったと思われます。次第に知人女性が地獄に落ちた蜘蛛の糸のように、あるいはトンネルの先の明かりのように、ターゲットからすれば見えてきたのかもしれません。

当初のターゲットの心配が、何も理由がなくて起きていた心配だとしても、知人女性がターゲットとの関係をどんなことがあっても断ち切らない、「私はあなたを決して見捨てない」というような態度をとれば、この人と一緒にいていつまでもこの安心感を抱き続けたいという気持ちになっていくようです。「自分の唯一の命綱」だというような依存心を形成してしまうようです。つまり不安の理由は人間関係、精神的問題、内科的問題など、様々な類型の理由から発生するのですが、そのどこかで強く安心できる事情があれば、不安を忘れることができ、その安心に飛びついてしまうということなのだと思います。

こうやって、理由不明の心配を知人女性との関係の結びつきを強くして消し去り安心しようとしてしまうと、ターゲットの心配は「この知人女性から見放されるのではないか」という心配にすり替わっていきます。何せ唯一の命綱なので、それが失われることを想像すると恐ろしくなるということは理解ができることではないでしょうか。

心配をしたくない、安心したいという気持ちは、かなり強い要求のようです。不安を解消するためなら、冷静に考えると考えられない不合理な行動を起こします。犯罪が起きる最初には、よく調べれば、この不安解消行動から始まっていることが多いです。自死も、不安解消のために命を落として不安を感じなくしたいということが衝動的に起きる類型も少なくありません。人間は、心配し続けることが苦手な動物のようです。このメカニズムはもっともっと注目され、研究されるべきだと思っています。

ところで、「それはそうかもしれないけれど、好き会って結婚した夫がいるではないか、子どもまでいたのに、そんな知人女性の口車に乗って離婚なんてできるものなのか」という疑問をお持ちの方もいらっしゃるでしょう。

これは、離婚事件に立ち会う職業としては、特に現代日本では、多く見られる離婚パターンだと感じています。実際第三者の「アドバイス」によって、夫が危険な人物だと思い込み、嫌悪、憎悪して離婚を申し立てる事案は決して少なくありません。その背景として、妻に理由のない心配があることも同じです。また、産後うつの場合は、出産後脳の活動形態に変化が起きてしまい、新生児に共感が向く結果成人男性に共感が向かなくなり、結果として自分が孤立していると感じるのではないかとされているところです。出産後、夫が従来の夫では安心できない同居人という最も警戒するべき対象となってしまいかねません。出産後は、ことさら妻を安心させる努力を具体的に行う必要があるということです。

もし、本件の実母が本当に洗脳されていたのであれば、夫が浮気をしたなどとウソをつかれなくても離婚をしたと思います。知人女性がターゲットを離婚をさせたがっているということがはっきりすれば、依存しきっている知人女性の意思を先取りするでしょう。判決が示した事実よれば、どう考えたって嘘だと思う夫の不貞の内容を告げられてターゲットが信じたと言っていますが、どうなのでしょうか。離婚をすることで知人女性との結びつきが強くなるというプラスの期待と、離婚をしないことで知人女性から見捨てられる不安が相まって離婚をしない選択肢が無くなったとしたならば、とても分かりやすいと思います。

ターゲットである実母は、知人女性の明らかな虚言によって、自分の実家とも疎遠になりました。どんなに洗脳されていても本当に真に受けたとは思えませんが、それを真に受けたというよりも、自分と知人女性との結びつきを強める事情として知人女性の意図を忖度して実家との連絡を絶ち切った可能性があると思います。夫と離婚した構造と全く一緒です。

このあたり知人女性は、かなり努力してターゲットの孤立化を画策しているのですが、その努力の結果によってすべて成功したと思ったのでその後かなり調子に乗って金の巻き上げなどにエスカレートしていったことは理解しやすいと思います。

初めから金を巻き上げようとしたというよりも、何でもかんでも言いなりになるのが面白いということと、実際に支払いに困っているなど、金を使う事情があったので、金も巻き上げようということになったというとかなりリアルに理解ができるような気がします。

ここで、知人女性は架空のボスという暴力団関係者の存在をにおわして騙しにかかっているということをしているようです。ターゲットはこのことにおびえてさらに知人女性の言うことを聞いたような認定がなされているのですが、やや違和感を覚えます。つまり、ターゲットがどこまで暴力団関係者が背後にいるということを信じたのかということについて疑問があるということです。

単純に言えば、ボスという第三者が直接こちらに働きかけるのであれば、知人女性が自分を見限ったということですから、もはや見捨てられる心配はしなくてよいことになってしまうからです。ボスがどんなに怖くても、知人女性が自分を見限らないという望みが無ければ洗脳が解けてしまいます。

ボスというのは知人女性の権威付けとして作用したというならば理解できます。そういう力のある人が知人女性の味方、スタッフにいるということで、知人女性がより頼りになると思い、信頼感、安心感が増したということならば、よくわかります。

既に、子どもに食事を与え無くなる以前に、ターゲットは知人女性に洗脳され切っていたということはその通りなのだろうと思います。大切なことは、そのような人間に、洗脳されないようにすることだということになろうかと思います。

洗脳され切った後では、その人との関係が途切れないことが最優先事項となってしまい、また空腹と睡眠不足によって、思考力が低下していますので、お題目を唱えるように、知人女性から見捨てられないことが最優先の行動原理になっていたと考えられます。言われることに抵抗することができなくなってしまうのです。

それでも、丸一日5歳の子にご飯を食べさせないということですら、空腹の顔をしているわが子であり、やせ細って標準体重の60パーセントになっている子供を見ても、なお10日間も食べさせないということが、どうやってできたのかについては疑問がなお残るところです。類似の事件もあることから、実際にあったことなのでしょう。もちろんわが子を見てかわいそうだなとは思ったことでしょう。そういう感情が、子どもに適切な栄養を与えるという行動、逃げ出すという行動にならなかったことに洗脳の空恐ろしさを感じるほかありません。

何としても、次の犠牲者を出してはなりません。

キーワードは、人の心配に向き合うということです。

先ず、産後うつかそれ以外の理由かわかりませんが、実母の心配、不安を家族が吸収するシステムを強化することです。

心配のシステムをよく研究して、それをどのように吸収して安心してもらうかということをもっともっと研究して対処方法を普及する必要があります。

一言で言えば家族強化です。この場合の家族は、最終的には両親と子どもという最小単位の家族ですが、その家族を強化するためには双方の実家を含めた安心できる人間関係を積極的に構築していく必要があると思います。家族からは決して見捨てられないという安心感を相互に持たせるのが家族なのだと私は思うようになってきました。

この家族同士のコミュニケーションに背を向ける家族(本件で言えば実母)がいたならば、拡大した家族が協力してこちらを向かせる必要があると思います。

はっきり具体的に言える理由が無いのに、離婚を考えているような場合は、実際に何らかの洗脳がなされている可能性があります。拡大された家族コミュニティーによって、離婚を申し出る人の心配を意識して聞き出して、どちらが悪いなどという話を抜きに、相手にも協力してもらい、安心ができる人間関係を形成する努力をするべきです。

ところが現代日本は、理由のない心配や産後うつによる成人男性不審について、励ましたり、窘めたりすることがありません。「離婚をしたくなったら、理屈ではなくそれまでよ。あとはどうしようもならない。」という割り切りの良い人間が当事者の周囲には実に多いです。これまでの日本では考えられない風潮が存在してしまっています。妻の両親など、第三者から見ればこれを良いことにさっさと離婚をさせて、自分の老後の面倒を見させようとしている場合もあります。

家族を強くするということがないと、今回の事件が防げないばかりか、過労死などの本人の自覚しないままの健康状態の悪化を防ぐことが難しいと私は思っています。

今回の実母の離婚理由は、あまりにもばかばかしいものであるため、たとえ洗脳を受けていたとしても、それその通り信じていたとは到底思えません。離婚したいのなら仕方が無いという割り切りすぎは間違いだという良い例だと思います。

また事後的ですが、一人が孤立したり、変な人物がまとわりついているような場合は、それに気が付く本人以外の人間の協力がどうしても必要です。本件では子どもは要保護対象者になっていたようですが、保護は実際なされませんでした。実家などからの保護の要請があれば結論は変わっていたかもしれません。そのためには子どもたちの現状を知りうる状態を作ることがどうしても必要です。

親権者ではなくなったとしても、父親の保護要請を児童相談所が聞き入れる制度を作るべきだと思います。この意味でも面会交流は定期的に実施されなければなりませんし、できるならば子どもといっしょに入浴ができるような宿泊付面会が望ましいと思います。

孤立と反対の行動を多く取り入れることが有効であることはよくお分かりになると思います。

現状の家族、特に夫婦をめぐる行政傾向は、この反対の行動、すなわち、家族を孤立化させている傾向にあるように思われてなりません。確かに行政が個別家庭に介入するには限界があると思います。だからこそ、子どもの健全な成長を政策として最優先し、子どもの関係者が子どもを見守ることができるような家族を中心としたコミュニティーを形成しやすいようにすることで、児童の虐待死を防ぐという発想の転換が急務だと考えています。


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