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【それは誤解です】弁護士が法律の条文で物事を解決する職業だと思っている人が結構いるという件 [事務所生活]

「弁護士は法律の条文で物事を処理するんでしょ。」

先日、ボランティアの集まりで、そういうことを言う隣接業種の方がいらっしゃったということで、これはこのブログのネタに最適だと思ってしまった次第です。

裁判所を通さない示談交渉はもちろん、
調停やADRや裁判上の和解
そもそも裁判の事実認定においても、
法律の条文は、あまり関係がないことが
実は多いのです。

それも法律だと言われてしまっては困りますが、
人権だったり、公平だったり
あるいは親子の情愛等が
解決手段として使われる方が多いと思います。

あるいは社会常識だったり、
医学的知識だったり。

過労死をはじめとする労働災害や交通事故は
医学的な論争になることもあります。

離婚や面会交流は
心理学や精神医学的知見が重視されなければなりません。
子どもの健全な成長のためということが
解決の基準とされるべきです。

ある相続の争いの事件で、
双方の誤解を解くために
心理学や医学の文献だけを証拠提出したこともあります。

法律の条文で決着をつけるような
簡単な事案ばかりではないのです。

それもそのはず。
法律がいかに多くても
現実の人間関係を規律するには
あまりにも少ないですし
あまりにも抽象的です。
これが法律の宿命です。

それだけ、人間関係や紛争は、
類型化しにくい事情が多くあるわけです。

それを知っているのが法律家のはずなのですが、
弁護士以外の法律家にも
弁護士の仕事について誤解があるようです。

それには理由があります。
司法書士や社会保険労務士の仕事は、
主として手続き的な仕事です。
それらの手続きは定型的なので
どうしても、法律の条文や
通達に従って仕事を進める比重が
多くなっていくという特徴があるわけです。

もっとも、その手続きを選択するまでには
やはり条文以外の要素も出てくるとは思います。


しかし、そういう誤解があったのかということで
納得できることもあります。

テレビ番組や、インターネットの法律相談で
法律的にはどうなのか
自分の要求は法律的に認められるのか
という質問が多くあり、
弁護士としては違和感がありながら
回答をしていました。
(テレビには出ていませんが、念のため)

実際の法律相談でもないことはないのですが、
あまり多い相談形式ではありません。

実際の相談は、
「今困りごとがある
これをどうやって解決するか」
という相談なのです。

「法律ではこうだよ
法律では認められるよ」
と言ったって、
それで解決することなんてないのです。

例えばパワハラ一つ取ったってそうです。
そもそもパワハラの定義自体曖昧だし、
ワンマン社長のパワハラが違法だとしても
法律違反だと宣告して解決する
ということにはなりません。

従業員が、あんたパワハラだといって
無くなればよいのですが、
先ずそれを簡単に言うことも難しいですし、
報復されれば、
裁判闘争になるでしょう。
弁護士を頼めばお金もかかります。

その人の個別事情を考えると
法律的には間違っていないにもかかわらず、
退職することがベストだということも
実際にはあるのです。

私は、対人関係上の争いは、
特に家族や仲間に関する争い事は、
法律や裁判で解決するべきではない
と考えています。

このブログを読んでいただいている方には
ご理解いただいていることだと思います。

結局
人間とは何か
紛争や心の葛藤が
どちらも悪くない状況でも起き得る
ということを直視することが
紛争解決の王道だと思っています。
特に大切な仲間同士の紛争については
そのように考えています。

ではどうやって解決するか、
それが対人関係学の
一つの使命だと思っています。

私の研究テーマということになります。