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死を命じられても、正規公務員と非常勤職員とで補償に格差があることについて。そもそも非常勤公務員に危険な公務を命じることについての疑問。 [労災事件]

毎日新聞で
特殊公務災害:震災から1500日 やりきれない補償格差
という記事が配信された。
http://mainichi.jp/select/news/20150419k0000m040089000c.html

特殊公務災害とは、簡単に言えば、
公務員は死ぬことになるようなことを命じられることがある
そのような公務命令の元で命を落とすなどした場合、
通常の災害補償の1.5倍の金額の給付をするという制度である。

警察官、消防士等が命の危険のある仕事の典型例であることはわかりやすい。
一般公務員も災害の避難誘導を命じられる場合があり、
津波の時などは、命令の内容によっては、
死を命じられると同等の命令になる。

東日本大震災の岩手県職員のうち
正職員62名は特殊公務災害が認定され手厚い補償がなされたが、
44名は、非常勤職員(いわばパート、有期等非正規雇用)ということで、
この手厚い補償がなされなかったというのだ。

命じられた公務は、
自分は避難しないで、住民の避難誘導をしろ
というものだとしたら、全く同じ公務ということになる。
確かに、それで雇用形態が違うから補償の手厚さが違う
というのは、不合理だ。

この既発生の不合理を解消する方法は二つあると思う。

一つは、44名の非常勤公務員の遺族に対して特殊公務災害の
補償をすること。
裁判になると思うけれど、
まずは、非常勤公務員に対して、特殊公務災害の認定をしない
という法律などの明文規定がないこと。
仮に、排除が制度としては認められてそれが立法者の意思だとすると
これは、憲法14条の法の下の平等違反であり
特殊公務災害の制度の適用があるという主張になる。

但し、ぜひ皆さんに考えていただきたい。
この主張は、非常勤公務員に対して
命を捨てろとという公務命令が正当だということが
前提になっている。それでよいのか。

もう一つの主張は、
非常勤公務員に対して、
命を捨てる危険があるのに避難誘導を命じたことが
違法であるという主張。
従って、特殊公務災害ではなく、
端的に損害賠償を請求する構成である。

もう少し詳しく言えば、
民間、自治体、国にかかわらず、
およそ他人を指揮命令する者は
相手方の健康や安全に配慮して命令をしなければならないという
安全配慮義務がある。

もし、非常勤公務員が、特殊公務災害の制度の適用がないならば
命の危険のある公務を命じられることがないことが
非常勤公務員の公務の内容として予定されているといわなければいけない。
そうだとすると、
非常勤職員に対して、自分の避難を許さず
住民の避難誘導を命じたことは
安全配慮義務違反の債務不履行ということになるはずだ。

私は、こちらの方が実態にあっており、
理論としても無理がないと思っている。

本当は、私は、正規職員に対しても
命を捨てろという命令が有効であるのか疑問がある。
ただ、話が哲学の領域に入ると思うので、
ここでは割愛する。

命を捨てろということは極端ではないかと
いまだに言っている上司もいるかもしれない。
しかし、宮城県では10mを超える津波が来ると
ラジオでは繰り返し叫んでいた。

例えば10m程度の防災対策庁舎にとどまる命令は
津波に飲まれることを想定しなければならない。
死ぬということを想定しなければならないのだ。
これは立てこもり犯を狙撃するより、
高度の確率で命を落とす命令だ。
(震災後も、防潮堤と防波堤の区別が付かない
 海辺の防災責任者がいたことは、広く報道されているが)

巨大津波に襲われたら、ほぼ確実に死ぬのだ。

実際、南三陸町の防災対策庁舎で避難誘導を担当していた
20歳代の女性職員は、
自分がこれから死ぬだろうことを、家族に対してメールで詫びていた。
命じられた職員は、死を覚悟していたのである。
もっとも、南三陸町では、
非常勤職員に対して命令を解除して帰宅を許した
ようにも聞いている。
(非常勤職員ではなく、若手職員かもしれない、すいません)

もしかしたら、正職員と非常勤職員で、そこまで区別をするのはどうか
という意見があるかもしれない。
しかし、正職員は、いざとなったら住民のために命を捨てる
という覚悟のある方が多い。
私は、仙台市若林区の事例、南三陸町の事例を担当し
公務員の方々のご遺族から直接話を聞いたが、
そのことを示すエピソードを必ず持っていた。

そのような心構え、いざという時の命の代償として
社会保険や、賃金、退職金、身分保障がなされているのかもしれない。

非常勤職員はそのような手厚い補償はなく身分は不安定である。

実質的にも、正規公務員の職業とはそういう職業であり、
そうではない非常勤職員には、命の危険のある公務を
命じてはならないのである。

現に震災後、自宅や家族の惨状を放置したまま
自治体職員は、連日泊りがけで公務に従事していた。

それにもかかわらず、東日本大震災で
非常勤職員に公務を命じたことは、
やはり違法というほかはないと感じている。

手厚い補償もしないで、身分が不安定であるにもかかわらず
命の危険のある仕事をさせる。
これは、東日本大震災の自治体だけの話ではなく、
非正規労働者のおかれている
現代日本社会の在り方に共通する話だと感じてならない。

また、南海トラフに備えて
非正規労働者に対して特殊公務災害制度を整備するべきだという意見もあったが、
私は、非正規労働者に対して命の危険のある公務を命じてはならない
そうであるならば正規公務員として採用しろということが主張であるので、
制度の整備には賛成できない。
危険があったら、直ちに公務を解除して避難をさせることが
非常勤職員の上司、自治体に課せられた法的義務であると考える。

命をかけて公務に従事しなければならないということを
ぜひ考えていただきたいと思う。

なお毎日新聞の根本記者ではない記者が書いた記事の中で、
一般職員が避難誘導した場合に特殊公務災害となるのは
2014年に要件が拡大されたと誤解させる記事がある。
震災当時から、このような公務が
特殊公務災害になることは制度としては認められている。
制度としてありながら、
特殊公務災害を認定しなかっただけのことである。
この点は誤報である。
視点が素晴らしいだけに残念な報道であった。


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