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自殺総合対策の更なる推進を求める決議 参議院厚生労働委員会 逐条批判  [自死(自殺)・不明死、葛藤]

なぜか、参議院厚生労働委員会において
平成27年6月2日
「自総合対策の更なる推進を求める決議」
が上がった。
参議院のホームページで掲載されているので、
ぜひご覧になってほしい。

http://www.sangiin.go.jp/japanese/gianjoho/ketsugi/189/i069_060201.pdf

自殺対策の所管が内閣府から厚生労働省に移管されるので
それにあたっての決議らしい。
委員会では満場一致で採択されたそうだ。

例えば、移管されることによって規模が縮小しないためになどの
政治的な目的がありやむを得ないのかもしれないが、
なんだかきわめて中途半端な決議である感が否めない。

項立てに従って感想を述べたい。

その前に、総論的なところとして、
政府においても、このような認識の下に、次の事項について、
迅速かつ確実に必要な措置を講ずることによって、
自殺対策を「地域レベルの実践的な取組」による「生きる支援」として構築し、
自総合対策の更なる推進を図るべきである。
というところから疑問がある。

どうしても、私には、
政府としては対策を自治体などにまかせ、
国としては調整役に後退する
と読めてならない。

そもそもその前提として、
全国各地の先駆的な取組を通じて得られた知見や経験というが、
いったい何を指しており、誰がどう評価したのか全く分からない。
少なくとも、そんなコンセンサスがどこかにあるのだろうか。
わからない。

第1項で、自殺対策は、命を支えることだと述べている。
一見ばかばかしいくらい当たり前のことを言っていると感じる。
しかし、この点は実は大問題である。
うがった言い方をすれば、
死ななければよいという考えで自殺対策をやられては困る
ということだ。

これは、皮肉ではない。これまでも、
自死リスクが高じた人を早期に発見し、精神科治療に回す
ということが、国の自殺対策の柱だった。
私は、あちこちで、自死リスクを生まないことこそ
第1の柱にするべきだと訴えてきた。

決議の第1項が命を支えるという表現を使ったことは、
これまでの自死対策の考え方を踏襲することを示している。
いじめの問題が起きたら、命の授業をしようというような
短絡的な発想であり、結果的には死ななければよいという発想だと
厳しく批判されなければならない。

命を支えればよいのではない、
生まれてきて良かったといえるような国民の人生を支えてほしい。

2項も当たり前のことを言ているが、
そもそも、国レベルでは、
何が阻害要因で、何が保護要因なのか
十分コンセンサスを得ていないはずだ。
貧困、失業、過重労働等については、
地域的な課題ではないはずだ。

3項は、かなり問題だ。
自殺の多くが複数の阻害要因が連鎖した末に起きている実態
というが、誰がどうやってそれを裏付けたのか。
過労自死や、いじめの実態を踏まえれば、
自殺の原因は単一であることが少なくない。

それは、第三者が介入しても防がなければならないものである。
そういう明白な侵害行為と、
その他の家族の状態などとをいっしょくたにして考えることは
結局真面目に自死を防ごうとしていないととってしまう。

いじめの裁判や過労自死の裁判で、
学校や会社が
いじめや過重労働はあったかもしれないが、
自死との因果関係は不明である
ということを言っているのを聞いたことがあると思う。

この第3項の表現を、
自死の原因は、環境的要因として複数ある
というドグマが定立されていて、
学校や職場の出来事はその中の一つに過ぎない
と主張がなされている。
勢い、いじめがあっても過重労働があっても
家族にも問題があるという論調が、
実際に行われているのである。

もっとも、
私も、主要な要因を取り除けば自死リスクがなくなるとは思っていない。
複数の専門家が、共同で関与することが有効だということは
実感している。

しかし、主たる原因がなければ、他の原因があっても
自死は敢行されないことが多い。
自殺の多くが複数の阻害要因が連鎖した末に起きているは、
根拠のないドグマであり、
一般の日常生活さえも、自死の要因にしてしまい、
結局、自死予防の優先順位を誤らせるだけでなく、
遺族を苦しめる結果を招来している。

そもそも自死の原因やメカニズムを明らかにできないくせに
要因は複数あるなどと断言すること自体が
眉唾ものなのである。

4項は、論ずる能力を私は持たない。
5項は、既存の自殺予防センターの何が不十分で、
あたらしい組織にすると、それがどう克服されるか
その点が全く分からない上に、
あたらしい組織が、国が丸投げする対象として特定されている。
ここまで細かい決議を国会でするべきなのか、
あまりにも唐突ではないか。
賛成した議員、政党は、くれぐれも責任を持ってもらいたい。
自殺対策のPDCAサイルってなんだ。
どこの国の国会決議だ。
国会議員は決議内容を読まないで賛成しているに違いない。

6項は、数値目標や行程表の作成という
多くの労働者を自死や予後不良の精神疾患に追い込んだ行為を
参議院が要求しているところが、腹が立つ。
自死の数値を減らすのは簡単だ。
死因を自死ではなく、衰弱死などとすればよいだけだ。
自死の要因について真摯に検討していないことの
明白な表れである。
自死のメカニズムもすっかり解明されていないのに、
数値目標を立てるということが
結果を要求してやり方を指導しないパワハラ上司のやり方である。
行程表を作られてしまえば、
国は管理しやすいだろうけれど、
創意工夫ある現場の取り組みは窮屈になる。

本当に効果があるかないかわからない上に
作成の方法がないことを押し付けられた末に
自死に至った人たちは極めて多い。
人を死に追いつめる官僚的発想、労務管理的発想を
国会決議であげる必要はない。


7項は、よくわからない。
8項は、言葉の揚げ足取りになるのが心配だが、
寄り添いホットラインがどれだけの効果を上げているのか
ぜひ教えてもらいたいところだ。
また、傾聴をすることも同様だ。
その挙句に相談どまりでは、自死が減るとは到底思えない。
なぜ、原因の除去という言葉でないのだ。
なぜ、寄り添い、傾聴、相談で頭打ちなのか。
しかもその施策限定なのか全く分からない。
くれぐれも、決議に賛成した議員政党は責任を持ってもらいたい。

被災地では、傾聴を押し付けられ、
不適切なかかわり方をされて、
深刻な精神的侵襲を受けた被災者が山ほどいる。
そういう実態を知っているのか。

9項は、自死遺族の情報の一元的集約をして
何をしようとしているのかわからない。
上からのやさしさの押し付けにならないことを期待する。
それよりも、一家の柱を無くして困惑している遺族に
あるいは莫大な損害賠償を請求されている遺族を
救済するための政策ということになぜ口をつぐむのか、
生活援助という言葉がどうしてでないのか。
なぜ支援情報の提供で頭打ちなのか、
賛成した議員に直接尋ねてみたい。

10項は、なぜ自死企図者への支援が
主として医療機関なのか、
追い詰められて末の死であると大綱を引用しておいて、
個人の精神疾患に原因を求めるという
後退しているのはこの決議そのものである。
また自死未遂者支援の専門家とは何か。本気で私は教えてほしい。
これも、自死というのが、
自死するような特別な人たちがいて、
他の普通の人とは異なるという差別意識の表れとしか言いようがない。
普通の人が、環境的要因から追い込まれて自死に至るということを
まるっきり理解していない。

11項は、実は一番頭に来ている。
どうして、SOSを出す事態になってからの行動を支援するのだ。
SOSを出さないような学校の在り方を提案できない。
一言で言って情けない。

「生活上の困難やストスに直面しても適切な対処ができる
力を身に付けさせる教育が重要である」

とあくまでも追い詰められた子供が自力で立ち直る教育をしようとしている。
これは深刻な問題である。

困難や過酷なストレスに直面したら
子どもに限らず大人も、自分ではどうすることもできなくなるのだ。
自ら、支援を断ち切っていくからこそ自死につながるのだ。
そんなことを全く知ろうともしないで、
自力で対処させようとしている。
本当に腹が立っている。
(ここまで読んでいただければ敢えて書くまでもないでしょうが)

極めつけは、
「SOSの出し方教育(自殺の0次予防)」という表現だ。
おいちょっと待てよと私は激怒している。
自殺の0次予防とは、
私が提案した概念だ。
平成24年刊行の日本評論社
「自殺問題と法的支援」(生越照幸編)
で述べている。

そこでは、リスク者に対して働きかける自死予防ではなくて、
リスクを作らないという自死予防に転換するべきだという意味合いで
0次予防を提唱したのである。
ここで敢えて0次予防という、人が作った言葉を
無遠慮に使う必然性は何もない。

SOSの出し方教育・・・(溜息しか出ない)
本気で言っているのか参議院厚生労働委員会!
SOSが出せないのは、出し方がわからないからではない。
SOSを出せる信用できる大人がいないからだ。

子どもに甘えるのもいい加減にしろ。

出してもらう方法についての
大人の教育の方が重要ではないのか、
また、そもそも子どもに心理的圧迫を与えていないか
すべての学校現場を点検するべきではないか。

学校でこそ、
教員や、上級生が
ハラスメントを起こしているのではないか。
真面目に考えろといいたい。
なぜ、追い詰められた子供に期待するのだ。
これが、日本の国会の自殺やいじめに対する理解の
現状だと思うと、
暗澹たる気持ちになる。





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