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パワハラについての誤解2 物に当たることや乱暴に事務用品を扱うということがパワハラになるのか [労務管理・労働環境]


前回の記事が思った以上にお読みいただけましたので、調子に乗って続編を書いています。

前回のおさらいを述べますと、必ずしも部下に身体的な痛みを与えようとしなくても、その時の具体的状況からパワハラかどうかは検討するべきで、特に会社のパワハラを防止して生産を上げたいと思った場合は、部下が萎縮したり反発するような行為は会社としては辞めさせて、もっと効率の良い指導方法を指導しなくてはならないということでした。だから、同じ力で肩をたたいても、パワハラになる場合もあるし、ならない場合もあるということを言いました。

その一番肝心な部分をご理解されたか否かということで、今回は冒頭に事例問題を提示しましょう。

<例題>
部下が仕事で初歩的なミスをしました。上司は、そのことに気が付いたとたん、愚痴も部下批判も言葉ではせずに、眉間にしわを寄せて不機嫌な表情をして、重量が5kgある穴あけパンチをぞんざいに扱って資料に穴をあけ、その後音が出るほど乱暴に失敗した部下の机の隣の机の上に置きました。

上司の行為はパワハラに該当するとして、会社としては改善を促してよいでしょうか。

<問題の所在>
厚生労働省の典型例の説明では、身体的な暴力に該当する例として
① 殴打、足蹴りを行う ② 相手に物を投げつける、
を上げています。
該当しない例として
① 誤ってぶつかる、を上げています。
例題のケースでは、典型例としての身体的暴力には該当しないようです。

もし、穴あけパンチを使う目的もないのに机から取り上げて、意図的に床に投げつければ、これは明らかな威嚇行為であり、「間接暴力」として、会社としては理屈抜きにやめさせるべきだと思います。

では、穴あけパンチで書類に穴をあけてファイリングするという用事はあったことはあったけれど、乱暴に扱ったために穴あけパンチを机に戻すときに比較的大きな音が出たという場合はどうでしょう。

これは、「暴行」だと認定することはなかなか難しいことです。間接暴力に該当するかどうかも難しいと思います。

それでも、パワハラに該当する可能性のある行為です。少なくとも、このような事情を会社が把握したならば、是正を指導するべきです。
むしろ、これまでパワハラ防止義務が企業に課されていなかった時代は、企業としては、このような乱暴な上司従業員に対して、なかなか指導をすることができなかった、二の足を踏む状態だったようです。しかし、今後は防止義務が課させられたので、「こういうことは防止するように国から言われている」という言い方で指導をすることができるようになったと思うべきでしょう。

乱暴な上司従業員と会社の総務など担当者の想定問答
担当者「大きな穴あけパンチを○○さんの隣の机に勢いよく置いたということですが、これは○○さんやほかの従業員が委縮してしまうので、パワハラになってしまう可能性があるので、ご注意ください。」
乱暴上司「え、パワハラですか。私は暴行をふるったわけではないですし、脅かそうと思ったわけではありませんよ。多少ガサツなところはあったかもしれませんが。」
担当者「それはわかっています。でもどうやら、パワハラって、部下が萎縮したり反発したりするような行為をいうようなのですよ。そうはいっても、あなたを処分するとかという話ではありませんから、心配しないでください。あくまでも、大きな音がするように重量のあるものを机に置かないで下さいという業務指示なんです。こういう業務指示をしないと、こちらも注意を受けてしまうので、ご理解ください。」

別バージョン
乱暴上司「私はそんなに勢いよく置いたかなあ。どのくらいが『勢いよく』ということなんだ。」
担当者「やっぱり、相手が萎縮するような置き方がだめだということなのです。処分をするわけではないのであなたの方で『勢いよく』ではないとおっしゃるならば、本当にそうなのだと思います。見ていた人が委縮したと言っているようなので、くれぐれも相手を委縮させるような行動にお気を付けください。」
乱暴上司「見ていたというのは誰なんですか。」
担当者「それは言ってはダメなことになっているようなので、ご不快の段は申し訳ありません。くれもぐれもあなたの行為を認定しているわけではなく、今後委縮されそうなことは避けてください。ということでご理解お願いいたします。」

こんな感じでしょうかね。会社の担当の方が、法律が変わったことを良いことに、今まで言えなかったことを、「言わざるを得ない。」という言い訳をしながら言うようにするということでよいのだと思います。責任は上手に国に押し付けてください。ただ、最終的には経営トップが、断固パワハラを失くして従業員のモチベーションを下げることをしないということが一番大切です。

だから厚生労働省の典型的な6類型
1 身体的攻撃(暴行、傷害)
2 精神的攻撃(脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言)
3 人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)
4 過大な要求 (業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制・仕事 の妨害)
5 過小な要求 (業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)
6 個の侵害 (私的なことに過度に立ち入ること)

このどれに当たるかということを吟味する必要はないのです。あえて言えば穴あけパンチの件は、2の精神的攻撃に該当するのですが、解説の脅迫にも、名誉棄損にも、侮辱にも当たらないと思います。ただ、あえて言えば、侮辱が一番近いということになると思います。乱暴な上司が、失敗した部下を、その人の席の近くで大きな物音を出しても構わない人間だということを同僚の前で表明したということですから。

しかし、そのような分類をしようとすると、かえってわからなくなったり、パワハラであると言えずに、改善のチャンスを逃してしまうことになります。これは、会社にとって回復しがたい損失になる可能性があるわけです。

 「同じことを取引先に対してやれるのか」という基準もよいかもしれませんね。取引先の担当者の発言に腹が立ったら、重量物をその担当者の近くの床に乱暴に置くようなことをその上司はするのかということですよね。

かえって自分のところの従業員は、今後末永く会社のためにパフォーマンスを発揮してもらわなくてはならないのですから、取引先よりも大事に扱わなければならないと考えることはおかしなことではないと思います。


* 今回の記事は前回の記事と合わせてお読みいただいた方がよろしいと思われます。

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